英語の絵本、どう選んでどう読めばいい?
なぜこの話題が気になるのか
「英語に触れさせたい」と思って絵本コーナーに足を運ぶと、思っていた以上に迷うことが多いものです。
- 文字数が多そうな本を選んでも、最後まで読み切れる気がしない
- 自分の発音に自信がなくて、変な英語を覚えさせたら…と心配になる
- そもそも、子どもが意味を分かっていないのに読んで効果あるの?
- 全部訳した方がいいのか、英語のまま読んだ方がいいのか
- 何度も同じ本を持ってくるけれど、それでいいのか
これらの悩みに、研究はかなり具体的なヒントを示しています。順に見ていきましょう。
研究は何を言っているのか
英語の絵本の読み聞かせは、二つの研究の流れが交差する話題です。一つは、日本語でも英語でも変わらない「読み聞かせ全般」の研究。もう一つは、「乳幼児の第二言語学習」の研究です。
流れ1:読み聞かせの効果は言語を問わず確認されている
0歳から成人前期までの読み聞かせ・読書経験(print exposure)を扱った 99 研究のメタ分析(対象児童・若者 計 7,669名)
は、家庭での絵本経験が、子どもの後の口頭言語能力・読解力・語彙 と中程度から強い相関を持つことを示しました。この研究は英語圏で行われたものが中心ですが、「絵本に触れた量が、後の言語力に効く」 という結論は、第一言語でも第二言語でも基本的に同じ方向を向いています。
流れ2:対話的に読むほど効果が大きくなる
2〜3歳児を対象に、絵本を読み上げるだけのグループと、子どもに問いかけながら読むグループを比較した1ヶ月の介入研究
は、対話的に読んだ家庭の子どもは、表現語彙テストで 8.5ヶ月分先に進んでいた ことを示しました。これがいわゆる対話的読み聞かせ(dialogic reading)です。
英語の絵本でも、この原則は変わりません。子どもの反応を待ち、指さしを受け止め、何かしらの言葉を返す ── それが、ただ英語を流すよりも何倍も効きます。
流れ3:第二言語の音は、社会的なやりとりの中で身につく
9ヶ月の英語環境の乳児を、(A) 中国語話者と対面でやりとりする、(B) 同じ内容の DVD だけを見る、(C) 音声だけを聴く、の3群に分けた PNAS の実験
は、印象的な結果を示しています。対面でやりとりした (A) 群だけが、中国語の音の聞き分け能力を獲得し、DVD や音声だけの (B)(C) 群では、効果が確認されませんでした。
これは「英語の音を聞かせるだけ」では十分ではなく、誰かが目の前にいて、子どもの反応に合わせて言葉を返す状況が、音の学習に決定的だ、という研究です。絵本の読み聞かせは、まさにこの「対面で言葉を返す」場面そのものと言えます。
9.5ヶ月の英語環境の乳児に、1ヶ月にわたり計12回(各25分)スペイン語話者と対面のやりとりを経験させ、脳波(ERP)で音声処理の変化を測定した追試
でも、5時間程度の対面接触で、スペイン語の音への神経反応が変化したことが示されました。「家でも、対面で短く繰り返すこと」の意味を支える結果です。
流れ4:第二言語の語彙は「読み聞かせ」と特に強く結びつく
スペイン語と英語のバイリンガル環境にある2歳前後の子ども 102名 を対象に、両言語の表現語彙と「家庭での絵本の読み聞かせ頻度」「テレビ視聴頻度」の関係を調べた研究
は、第二言語(子どもにとってマイナーな方の言語)の語彙の伸びは、その言語での「絵本の読み聞かせ頻度」と強く結びつく一方、テレビ視聴とは結びつかなかったことを報告しました。
つまり、英語のテレビを流しっぱなしにするよりも、短時間でも英語の絵本を読み聞かせる方が、子どもの英語の語彙にとっては効果的ということです。Kuhl らの「対面の重要性」と整合的な結果でもあります。
そもそも、私の発音にあまり自信がなくて…。下手な発音で読んだら、変な英語が定着しちゃうんじゃないかと不安なんです。
その心配は、研究を見るとかなり杞憂ですよ。子どもの音の聞き分けは、家庭の読み聞かせだけで決まるわけではなく、保育園、スクール、動画、歌、いろんな英語入力から音の像が作られていきます。お母さんの発音だけが「教師」になるわけではないんですね。
じゃあ、私が読んで大丈夫なんですね…。
むしろ、お母さんが読んでくれることのプラスは、発音の代替が効かないところにあるんです。Kuhl らの実験が示したように、第二言語の音や語彙は、「対面の関わり」の中で初めて根づく。動画や音声だけでは届かない「目の前に大好きな人がいる」状況を、お母さんは毎晩作ってあげられる。これは、ネイティブの動画では代われない部分なんですよ。
そう聞くと、ちょっと気が楽になります。あと、英語の意味って、毎ページ日本語に訳した方がいいんでしょうか?
全部訳す必要はありません。むしろ、訳しすぎると「英語を聞いている時間」が「日本語を聞いている時間」に変わってしまうこともあります。指さし、表情、声の抑揚、絵そのものが意味を補ってくれるので、難しい単語だけ「これ、ぞうさんだね」と添える、くらいがちょうどいい温度感です。
英語の絵本の選び方
研究を踏まえると、「読み聞かせが続けられて、対話が生まれやすい本」が、英語の絵本選びの軸になります。具体的には、次の四つの特徴を満たす本が、最初の一冊に向いています。
選びやすい英語の絵本タイプ
繰り返し構造の本
REPETITIVE
同じフレーズが何度も出てくるタイプの本です。子どもが先回りして口に出すようになり、自然と語彙が定着します。Bill Martin Jr.『Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?』、Eric Carle『The Very Hungry Caterpillar』が代表例です。
絵が物語を語る本
VISUAL STORY
言葉が分からなくても絵だけで何が起きているか伝わる本。指さしと表情だけで「対話的読み聞かせ」が成立します。Eric Carle のコラージュ絵本、Maurice Sendak『Where the Wild Things Are』など。
韻とリズムのある本
RHYME & RHYTHM
韻を踏み、声に出すと音楽のように響くタイプ。Dr. Seuss シリーズや Mo Willems の『Don't Let the Pigeon Drive the Bus!』などは、意味よりまず「音の楽しさ」を運んでくれます。
古典・定番から始めて大丈夫
「どれを選べばいいか分からない」場合、まずは英語圏で長く読み継がれている定番から入るのが安全です。長く残っているのには理由があり、子どもが食いつきやすい・繰り返しに耐える・絵だけでも楽しめるといった条件を満たしているものがほとんどです。
- Eric Carle(『はらぺこあおむし』など) ── 鮮やかなコラージュと繰り返し
- Bill Martin Jr.(『Brown Bear, Brown Bear…』など) ── 同じ構文の反復で安心感
- Dr. Seuss(『Green Eggs and Ham』など) ── 韻と造語のリズム
- Maurice Sendak(『かいじゅうたちのいるところ』) ── 絵が雄弁に語る
- Mo Willems(『Pigeon』『Elephant & Piggie』シリーズ) ── 子どもの反応を引き出す対話設計
これらの本は、英語に自信がない親でも読みやすく、また日本でも入手しやすいのが利点です。
文字量より「子どもが好きそうか」を優先
英語の絵本選びで陥りやすい失敗が、「英語を学ばせたいから、できるだけ文字量の多い本を」と背伸びしてしまうことです。研究的には逆で、子どもが好きそうな主題(動物、乗り物、食べ物、家族など)で、1ページあたり1〜2文しかないような本の方が、対話的に読みやすく、繰り返しに耐え、結果として読み聞かせが続きます。
英語の絵本の読み方
選ぶより難しいのが、「どう読むか」かもしれません。日本語の絵本と共通する部分も多いですが、英語ならではのコツもあります。
1. 全部訳さない、絵と表情に頼る
英語の絵本を読むときに最もやってはいけないのが、「英文を読んだ後に毎ページ日本語訳を加える」ことです。これをすると、英語を聴く時間が日本語に置き換わってしまい、結局は「日本語の絵本を遠回りに読んでいる」状態になります。
代わりに、
- 指さしながらキーワードだけを強調する
- 表情と声の抑揚で意味を伝える(怒っているところは怖い声、嬉しいところは弾んだ声)
- どうしても伝わっていなさそうな単語だけ、最後にひとこと「これは○○だよ」と添える
このくらいの介入で十分です。絵本の絵そのものが、最大の翻訳機として働いてくれます。
2. 子どもの反応を待つ(対話的に読む)
Whitehurst らの研究で示された「対話的読み聞かせ」は、英語の絵本でもそのまま使えます。具体的には、
- “What’s this?”(これ何だろう?)
- “Where is the bear?”(くまさんはどこ?)
- “Look! He is sleeping.”(見て、寝てるね)
のようなシンプルな問いかけや実況を入れます。難しい英語を話す必要はなく、知っている単語だけで構いません。子どもが指をさしたり、何か言ったりしたら、それを受け止めて少しだけ言葉を足してあげる ── 日本語の読み聞かせと、まったく同じ原則です。
3. 何度も同じ本を歓迎する
子どもが「これ、もう一回」と同じ本を持ってくるのは、英語の絵本では特に大切なサインです。第二言語の語彙は、同じフレーズを繰り返し聞くことで初めて定着します。違う本に変えるよりも、同じ本を10回読む方が、結果として身につく語彙は多くなります。
4. 短くてOK、続けることが最大の効果
5分でも、寝る前の1冊でも、構いません。Patterson (2002) が示したのは「読み聞かせの頻度」と語彙の関係であって、「1日に何十分」という量ではありません。ゼロを毎晩1冊にするだけで、研究の言う「読み聞かせ頻度」の効果が立ち上がってきます。
5. 親が楽しめる本を選ぶ
意外と見落とされがちなのが、「親自身が読んでいて楽しい本か」です。親が「またこの本か…」と思いながら読むのと、「私もこの絵本好き」と思いながら読むのとでは、声の抑揚も対話の量も大きく変わります。子どものために選ぶというより、親子で一緒に楽しめる本を選ぶのが、結果として続けるコツです。
締めの対話
結局のところ、英語の絵本って、何冊買えばいいんでしょうか?
冊数は、研究の中で重要な変数として出てきません。むしろ、「気に入った数冊を、何度も読み返せること」の方が大切なんですね。最初は1〜2冊で十分です。お子さんが特に好きそうな1冊が見つかったら、それを「うちの英語絵本」として育てていくくらいの感覚でいいと思いますよ。
たくさん買い揃えなくていいって聞くと、なんだか肩の荷が下りました。
それと、お母さんの英語が「下手だから」と気にされていたのも、本当に心配しなくて大丈夫ですよ。研究で繰り返し示されているのは、子どもにとって何より効くのは、「目の前にいる人が、自分の反応を見ながら言葉を返してくれること」。これは、ネイティブの動画にも、流暢な先生にも、お母さんの代わりはできないんです。
今夜から、まずは1冊、ゆっくり読んでみます。
その「ゆっくり」が、英語の絵本にとっては最高の読み方ですよ。お子さんが指をさしたら待つ、何か言ったら受け止める、それだけで十分に「対話的読み聞かせ」になっていますから。
研究の詳細
Primary sources研究デザイン: 系統的レビュー + メタ分析
対象: 1980年代から2010年までの 99 研究(対象児童・若者 計 7,669名)
主要結果: 家庭での読み聞かせ・読書経験(print exposure)が、後の口頭言語能力・読解力・スペリングと中程度から強い相関。未就学期の段階で、口頭言語能力の差の 12% を、読書経験という単独要因が説明する。年齢が上がるほど影響は積み重なる。
限界: 相関研究が中心で、因果関係の証明には限界がある。家庭の社会経済的背景の影響を完全には統制できない。第一言語(主に英語)を対象とした研究が中心で、第二言語学習への外挿は慎重さを要する。
研究デザイン: 無作為化比較試験(RCT)
対象: 2〜3歳児 30名(対話的読み聞かせ群 15名 / 通常読み聞かせ群 15名)、1ヶ月間の家庭介入
主要結果: 対話的読み聞かせを行った家庭の子どもは、対照群と比べて表現語彙テストで 8.5ヶ月分先行。Illinois Test of Psycholinguistic Abilities でも有意な向上(p<0.01)。介入終了から9ヶ月後の追跡でも差は維持。
限界: 小規模サンプル(計 30名)、米国の中流家庭が対象。日本語環境・第二言語環境への効果は別途検証が必要だが、後続研究で他言語・他文化での再現性も繰り返し報告されている。
研究デザイン: 介入実験(無作為化、3条件比較)
対象: 9ヶ月の英語環境の米国人乳児。Mandarin 中国語話者との対面接触群(A)、同じ内容の DVD 視聴群(B)、音声のみ呈示群(C) に割り付け、各群とも12セッション実施。
主要結果: 対面接触群(A)のみが、中国語の音の聞き分け能力を獲得し、英語環境の対照児に対して有意な差を示した。DVD や音声だけの群(B)(C) では効果が確認されなかった。第二言語の音声学習において「社会的相互作用」が決定的に重要であることを示唆。
限界: 中国語の特定の音素対(/ɕ/-/tɕʰ/ 等)を対象とした実験で、他の言語・他の音素への一般化は別途検証が必要。乳児期(9ヶ月)の知見であり、年長児に同じく当てはまるかは別問題。
研究デザイン: 脳波(ERP)を用いた介入研究
対象: 9.5ヶ月の英語環境の乳児。1ヶ月にわたり12回(各25分)、スペイン語話者との対面セッションを経験。
主要結果: 介入前にはスペイン語の音素対比に有意な脳反応が見られなかったが、合計約5時間の対面接触の後には、第二言語(スペイン語)の音への神経反応が変化。同時に、母語(英語)の音への反応も阻害されず、むしろ向上した。
限界: 短期(1ヶ月)の介入で、長期的な保持や運用能力との関連は未検証。脳反応の変化が実際の発話・聴解の能力にどの程度つながるかは別途検証が必要。
研究デザイン: 観察研究(横断的)
対象: 英語・スペイン語のバイリンガル環境の 2歳児 102名。両言語の表現語彙(親報告)と、各言語での「絵本の読み聞かせ頻度」「テレビ視聴頻度」を測定。
主要結果: 各言語での絵本の読み聞かせ頻度は、その言語の表現語彙数と有意に相関。一方、テレビ視聴頻度は語彙と有意な関連を示さなかった。同じ「英語入力」でも、絵本(対人・双方向)とテレビ(一方向)で効果が大きく異なることを示唆。
限界: 横断研究のため因果関係の証明には限界がある。米国の英語・スペイン語バイリンガル家庭が対象で、日本語・英語環境への外挿は慎重さを要する。親報告の語彙数指標を使用。