幼児教育を科学する
領域別検証 スポーツ・運動

体操教室・新体操 ── 体幹と柔軟性を育てる選択肢

読了 約14分
4歳児ママ からの相談 — 体操教室・新体操に通わせるか迷っている。運動神経や姿勢が気になっており、ゴールデンエイジ前に何かさせた方がよいのか知りたい

なぜこの話題が気になるのか

4歳前後になると、体操教室や新体操の体験会に行ってきたママ友の話を聞く機会が増えてきます。マット運動、跳び箱、平均台、トランポリン ── 家ではできない動きが揃っていて、コーチが丁寧に見てくれる。新体操ならリボンやボールを使った優美な演技も魅力です。

そんな中で、家庭ではこんな問いが浮かんできます。

  • 体操をやれば運動神経が良くなる、って本当?
  • 姿勢が悪い・体幹が弱い気がするけど、体操で直る?
  • ゴールデンエイジ(5〜12歳)の前に何か始めた方がいい?
  • 体操クラブ・体操教室・新体操、何が違うの?
  • 月謝も送迎も大変。家でできることで代替できる?

これらに、運動発達・スポーツ医学の研究はかなり穏やかな答えを返してくれます。「体操をすれば運動神経が良くなる」というほど単純ではないし、「ゴールデンエイジを逃すと手遅れ」でもない。一方で、体操で育ちやすい動きの種類は確かに存在し、それは公園遊びと併用すれば十分に補えます。順に見ていきましょう。

研究は何を言っているのか

幼児期の体操については、(1)Long-Term Athletic Development の理論研究、(2)Fundamental Movement Skills 介入のメタ分析、(3)早期特化のリスク研究、という3つの角度から知見が積み上がってきました。4歳児ママが特に気にする3つの問いに、それぞれの研究で答えていきます。

問い1:ゴールデンエイジって本当にあるの? 幼児期(4歳)は何の時期?

「ゴールデンエイジを逃すな」という言葉を聞いたことがあるママは多いと思います。ゴールデンエイジは元々スポーツ指導現場で広まった概念で、神経系の発達が著しいとされる5〜12歳ごろを指す言い回しです。神経系の発達が幼児期〜学童期に活発であることは事実ですが、「この時期を逃すと特定の動きが二度と身につかない」というほど厳密な「臨界期」ではない、というのが現代の運動発達研究のおおむねの整理です。

バリーとハミルトン(2004 カナダのスポーツ科学者による Long-Term Athletic Development(長期的アスリート発達)モデルの中心論文 は、幼児期から成人までの発達を6〜7段階に分けて整理しました。その第1段階「FUNdamental ステージ(おおむね6歳前後まで)」では、「特定スポーツの技術練習ではなく、走・跳・投・捕・蹴・登・転がる・バランス・水中動作など、あらゆる基礎的な動きを楽しく経験する時期」と位置づけられています。「FUN(楽しさ)」が大文字で強調されているのは、この時期に「やらされる練習」にしてしまうとスポーツから離れる確率が上がるためです。

ロイドとオリバー(2012 LTAD モデルを発展させた Youth Physical Development(YPD)モデルの提案論文 も同様に、幼児期は「基礎運動スキル」と「神経筋協調性」を伸ばす時期で、「特定種目のスキル」「最大筋力」「持久力の本格トレーニング」はもっと後と整理しています。つまり、4歳の段階で「体操の技を仕込む」必要はなく、「いろいろな動きを経験する」という大枠の中で、体操教室はその選択肢の一つ、というのが研究的位置づけです。

日本の 文部科学省(2012 2012年策定の幼児期運動指針 も、同じ方向で書かれています。「幼児期は多様な動きを獲得する時期」「1日合計60分以上、楽しく体を動かすこと」「特定の運動に偏らず、体を動かす遊びを中心に」──「○○の技ができるように」ではなく「動きの多様性」を強調する内容です。

問い2:体操教室・新体操で「何が」育つのか? 運動神経は本当に良くなる?

ここはママが一番知りたい問いだと思います。研究的に整理すると、「運動神経」という単一の能力があるわけではなく、複数の運動スキルがそれぞれ伸びる、と捉えるのが正確です。

ローガンらのメタ分析(2012 2〜18歳の子どもを対象とした基礎運動スキル介入研究のメタ分析(11研究を統合) は、構造化された運動プログラムは、自然な発達単独よりも基礎運動スキルの獲得を有意に促進する(効果量 d=0.49、p<0.05)ことを報告しました。これは「体操教室特有の効果」というよりも、「コーチが付いて、いろいろな動きを意図的に経験させる場」全般の効果と読むのが妥当です。サッカー教室でも、ダンス教室でも、似た効果が得られる可能性があります。

そのうえで、体操教室・新体操で特に経験しやすい動きには、次のような特徴があります。

体操教室・新体操の幼児クラスで育ちやすい要素
家庭・公園との比較(編集部による目安)
体幹・姿勢保持
倒立準備・ブリッジ・平均台で体幹を使う
高め
柔軟性
毎回のストレッチが組み込まれている
高い
空間認識(自分の体の向き)
前転・側転で身体軸の感覚を養う
高め
転び方・受け身
マットの上で安全に転ぶ経験
高め
リズム・表現(新体操)
音楽に合わせた動きと演技
高め
走・跳・投・捕の総合
公園遊びと比べると種類は限定的

数値は編集部による「育ちやすさ」の目安。体操で育つ要素は明確にありますが、公園遊びで代替・補完できる部分も多くあります。「体操をすれば運動神経が全部良くなる」ではなく「特定の動きが経験しやすい」という捉え方が正確です。

出典:Balyi & Hamilton (2004), Lloyd & Oliver (2012), Logan et al. (2012), 文部科学省幼児期運動指針 (2012) を参考に編集部で作成

整理するとこういうことです。

  • 体幹・姿勢保持:倒立準備、ブリッジ、平均台での片脚立ちなど、体幹を使う動きが毎回入ります。「姿勢が悪い」と気になる場合の選択肢の一つになりえます(ただし、姿勢の悪さの多くは体幹の弱さよりも、椅子・机の高さ・画面視聴姿勢など環境要因のことが多い点は押さえておきたいです)。
  • 柔軟性:体操・新体操ともに、ストレッチが毎回のレッスンの基本パートに組み込まれています。特に新体操は柔軟性を重視する種目で、開脚・ブリッジ・後屈などが繰り返し練習されます。柔軟性は幼児期に伸ばしやすい要素の一つです。
  • 空間認識・転び方:前転・側転・跳び箱・トランポリンは、「自分の体が今どの向きを向いているか」「どう転べば安全か」を学べる、家ではやりにくい経験です。これは自転車練習や運動会の組体操など、後の様々な場面で役立つ基礎になります。
  • リズム・表現(新体操):新体操は音楽に合わせて動く要素が強く、リトミック的な要素も含みます。リボン・ボール・ロープなどの手具を扱うことで、目と手の協調性も育ちます。
  • 自己効力感:「前まわりができた」「跳び箱が跳べた」という達成体験の積み重ねは、体操教室の特徴的な良さです。ただしこれは、コーチの褒め方・進級システムの設計次第で、逆に「できない自分」を強く意識させてしまうケースもあるため、教室選びの観察ポイントになります。

注意したいのは、「体操をすれば運動神経が良くなる」「他のスポーツが何でもできるようになる」というほど単純な転移(transfer)は、研究的にはあまり示されていない点です。体操で身についた前転は、サッカーや野球を上手にしてはくれません。運動スキルは「やった動きが育つ」のが基本、と捉えるのが現代の運動学習研究の整理です。

問い3:幼児期に体操を「本格的に」やらせるとどうなる? 早期特化のリスク

体操・新体操は、競技として見ると「早期特化型」の代表的な種目です。トップレベルの女子体操・新体操選手の多くは4〜6歳から本格的なトレーニングを始め、10代前半でピークを迎えます。だからこそ、「うちも今から本格的に」と考えるご家庭もあります。

ここは研究的に注意が必要なポイントです。

米国小児科学会(AAP)のブレナーら(2016 若年アスリートのスポーツ早期特化と集中的トレーニングに関する2016年クリニカルレポート は、「12歳ごろまでは、複数のスポーツに参加することで、ケガ・ストレス・燃え尽きのリスクが減る」と一致して述べています。特に体操・新体操・フィギュアスケートなど早期特化型種目については、「成長期の使いすぎ外傷」「摂食障害(特に女子の審美系種目)」「燃え尽きと10代でのドロップアウト」のリスクが、複数の研究で繰り返し指摘されてきました。

コテとビエリマー(2014 Developmental Model of Sport Participation(DMSP)の15年間の研究蓄積をレビューした論文 は、「サンプリング(複数種目を試す)」アプローチと、「早期特化」アプローチを比較し、「ほとんどのスポーツにおいて、幼少期のサンプリング期間を経た選手のほうが、長期的な競技継続率も、生涯にわたる身体活動も高い」と整理しました。早期特化が向くのは一部の審美系・アクロバティック系種目(体操・フィギュアスケート・ダイビングなど)に限定され、それですら「早期特化のメリットと、燃え尽き・ケガ・社会的孤立のリスクを天秤にかける必要がある」と注意を促しています。

つまり、4歳のお子さんに対して「将来の体操選手・新体操選手に育てる目標で、週4〜5回ハードに通わせる」のは、トップアスリートを目指す家庭の特殊な選択であり、一般のご家庭が無理に取る道ではありません。週1〜2回・1時間程度の「楽しく体を動かす場」として体操教室を使うのであれば、これらのリスクはほとんど発生しません。

4歳児ママ

お友だちが体操教室に通い始めて、うちもどうしようか迷っています。「ゴールデンエイジ前の今がチャンス」と聞いて焦っています。

ねい先生

その焦りは、よく分かります。ただ、研究的には「ゴールデンエイジを逃すと手遅れ」というほど厳密な臨界期があるわけではないんです。Balyi & Hamilton の LTAD モデルでも、Lloyd & Oliver の YPD モデルでも、幼児期は「特定の技」よりも「動きの多様性そのもの」を育てる時期、と整理されています。4歳の今、「体操の技を仕込まないと間に合わない」と考える必要はないですよ。

4歳児ママ

でも、体操教室に通うと体幹や柔軟性が育つって聞きます。家でやらせるのは難しいので、教室の方が確実なのかなと。

ねい先生

そこは確かにそうです。体操教室は柔軟性・体幹・転び方・空間認識など、家ではやりにくい動きを安全に経験できる場として、ちゃんと価値があります。ローガンらの2012年メタ分析では、構造化された運動プログラムが基礎運動スキルを促進する効果が示されています。ただ、これは「体操だから」というよりも「コーチが付いて、意図的にいろいろな動きを経験させる場」全般の効果なので、お子さんが楽しめれば体操でも、サッカーでも、ダンスでも構わない、と読むのが正確です。

4歳児ママ

本格的にやらせたい気持ちもあって、選手コースのある教室も検討しています。

ねい先生

そこは少し慎重に考えていただきたいところです。AAPの2016年クリニカルレポートも、Côté & Vierimaa の発達モデル研究も、「幼児期からの早期特化は、ケガ・燃え尽き・スポーツ離脱のリスクを上げる」と一致しています。週4〜5回のハード練習は、トップアスリートを目指す家庭の特殊な選択で、一般家庭が「念のため」で選ぶような道ではないんです。週1〜2回・1時間ほどの楽しいクラスから始めるのが、研究的には無理のないラインです。

実際にやるならどうするか

研究を踏まえて、家庭で取り入れやすい判断軸を整理します。

1. 体操クラブ・体操教室・新体操 ── タイプを理解する

「体操」と一口に言っても、雰囲気も目的もかなり違います。タイプを理解すると、選びやすくなります。

幼児体操教室(ヨガ・運動遊び寄り)

Recreational gymnastics

コナミ・セントラル・地域のスポーツクラブ・市民体育館など、幼児コースを設けている施設。マット・跳び箱・トランポリン・平均台などを楽しく経験する場で、競技を目指す前提ではない。週1回が基本。月謝7,000〜10,000円程度。FMSの経験の場として、最も入りやすい選択肢。

体操クラブ(競技志向)

Competitive gymnastics club

日本体操協会登録の体操クラブで、選手コースを持つ施設。幼児クラスから始めて、適性があれば選手コースへ。週2〜5回、レッスン時間も長めで本格的。怪我のリスクや精神的負荷も上がるため、お子さんが本人として強く希望するか、家族全体で覚悟して選ぶ進路。

新体操教室

Rhythmic gymnastics

ボール・リボン・ロープなどの手具を使い、音楽に合わせて演技する種目。柔軟性とリズム感、表現力が中心。幼児コースは「楽しく動く・柔軟性を伸ばす」段階。選手コースは早期特化型で、ハードな柔軟訓練・摂食コントロールが課題として知られている。幼児期は趣味コースから始めるのが無難。

4歳のお子さんに「念のため」「将来のために」という理由で選ぶなら、左の「幼児体操教室(運動遊び寄り)」が、研究的にも家計的にも入りやすい入り口です。中央の競技志向の体操クラブ、右の本格的な新体操の選手コースは、お子さん本人が強く希望し、家族全体で時間と費用と覚悟が揃った時に検討する道として位置づけるのが現実的です。

2. 月謝・送迎・継続性 ── 現実的なコストを置く

「教育投資だから」と無理をすると、続けるプレッシャーが家族を疲弊させます。4歳の運動習い事は、「無理なく続けられるかどうか」が研究的にも一番大事です。

  • 月謝:体操教室7,000〜10,000円/月、新体操6,000〜12,000円/月が一般的。これに発表会・進級テスト・ユニフォーム代が加わります。家計の中で「続けるのが当たり前」になる金額か、ゆるく確認しておくと安心です。
  • 送迎:平日夕方の送迎は、ワーママ・専業ママ問わず大きな負担になります。徒歩・自転車圏内、もしくは送迎バスがある教室を選ぶと続きやすいです。
  • 振替制度:発熱や用事で休んだ時の振替が柔軟な教室は、長く続けやすい指標になります。「振替なし、欠席分は消化扱い」の教室は、ワーママには続けにくい設計です。
  • 継続年数の見通し:「やめどき」を最初から決めておくと、罪悪感なくやめられます。「年長まで」「小学校入学まで」など、ゆるい区切りを決めておくのも一案です。

3. 家庭で代替できる部分を押さえる

体操教室で経験できる動きのかなりの部分は、家庭・公園で代替が可能です。「教室に通わない」選択をする場合も、家庭で意識すれば十分カバーできます。

  • 前転・後転:布団の上、ヨガマットの上、芝生の上でできます。最初は親が腰を支えてあげれば安全です。
  • 体幹・バランス:平均台の代わりに、公園の縁石・床に置いた紐の上を歩く・片脚立ち・カエル跳び。
  • 跳ぶ:トランポリン(家庭用の小さいものでも可)、低い段差からのジャンプ、縄跳びの導入。
  • 柔軟性:お風呂上がりの親子ストレッチ、開脚・前屈を遊び感覚で。「○○ちゃんはどこまでつくかな〜」程度で十分。
  • 登る・ぶら下がる:公園のジャングルジム、雲梯、ロッククライミング遊具。これらは体操教室と同じくらい上半身の筋力と空間認識を育てます。
  • 転がる・回る:芝生の上での横転、でんぐり返し、子ども用のローラー遊具。

「教室に通わせていないから運動の経験が不足する」とはなりません。むしろ、外遊びの時間が確保できているご家庭は、体操教室なしでも十分にFMSを育てている状態です。

4. 続けやすい教室の選び方 ── 体験会の観察ポイント

体験会に行く際、ぜひ見ていただきたいポイントを整理します。

  • コーチの褒め方・声かけ:「できた・できない」だけでなく、「挑戦したこと」「前回より良かったこと」を見てくれているか。萎縮した子に対する対応を観察すると、教室の方針が見えます。
  • 進級システム:級が細かく区切られて、頻繁に達成感が得られる教室は、自己効力感を育てやすい一方、「進級できない焦り」を生む側面もあります。お子さんの性格と相性を見ましょう。
  • 保護者の見学可否:常時見学可能な教室は、何かあった時に気付きやすく、信頼関係も築きやすいです。「保護者は別室・モニターのみ」の教室は、コーチの実際の声かけが見えづらい点に注意。
  • クラスの人数とコーチ比率:幼児クラスは、コーチ1人に対して子ども10人を超えると、一人ひとりへの目が行き届きにくくなります。
  • 終わった後のお子さんの様子:体験会終了後に「また行きたい」と言うか、ぐったり疲れているか、嫌がる素振りがないか。これが、研究的にも一番大事な判断材料です。

5. 「姿勢が悪い」「体幹が弱い」が動機の場合の整理

「姿勢が悪い気がする」「体幹が弱そう」という動機で体操を検討するご家庭は多いです。ここは少し整理が必要です。

幼児期の姿勢の悪さは、体幹の弱さよりも、家庭の椅子・机の高さ、画面視聴時の姿勢、外遊び時間の不足、足のサイズに合わない靴などの環境要因の方が、実は影響が大きいとされています。体操教室で体幹は確かに育ちますが、「教室に通わせれば姿勢が直る」というほど直接的な因果関係は研究的に強くありません

姿勢を気にする場合、まずは

  • 椅子と机の高さ調整(足が床にしっかり着く高さ)
  • 画面視聴の時間と姿勢の見直し
  • 外遊び時間を増やす(WHO 2019年ガイドラインの目安「1日180分以上」)
  • 足のサイズに合った靴を履かせる

から始めて、それでも気になるなら体操教室を選択肢に加える、という順序が無理がありません。

締めの対話

4歳児ママ

お話を伺って、「体操に通わせないとまずい」という焦りが少し解けてきました。

ねい先生

それでいいんです。体操教室は素敵な選択肢の一つですが、絶対に必要なものではありません。LTADモデルも、YPDモデルも、文科省の幼児期運動指針も、4歳児に求めているのは「特定の技」ではなく「楽しく多様な動きを経験すること」だけです。教室があってもなくても、その条件が満たされていれば、お子さんの運動の土台はちゃんと育っています。

4歳児ママ

柔軟性は気になるので、新体操の体験には行ってみようかなと思います。

ねい先生

それは良い方向だと思います。新体操の幼児クラスは、柔軟性とリズム感を伸ばす場として工夫されています。体験会で、お子さんの表情と、終わった後の反応を見てあげてください。「またやりたい」と言ったら通えばいいし、ピンとこなかったら見送って大丈夫。本格的な選手コースに進むかどうかは、もっと先で考えても遅くないんです。

4歳児ママ

通わせるとしても、週1回くらいで、外遊びと両方やっていく感じが良さそうですね。

ねい先生

研究的にもそれが一番無理のないラインです。週1回の体操+日々の公園・家庭遊びの組み合わせは、FMSを多面的に育てる、いいバランスです。「体操か外遊びか」ではなく「体操も外遊びも」、と捉えていただければ十分。お子さんが楽しんで体を動かしているなら、それがそのまま、長く運動と付き合える土台になっていきますよ。

研究の詳細

Primary sources
Balyi & Hamilton 2004 Olympic Coach, 16(1), 4-9

研究デザイン: スポーツ科学・コーチング理論の概念モデル提案(レビューと理論統合)

対象: 幼児期から成人までのアスリート発達全般(競技種目横断)

主要結果: Long-Term Athletic Development(LTAD)モデルとして、発達段階を6〜7ステージに整理。第1ステージ「Active Start(0〜6歳)」と第2ステージ「FUNdamentals(6〜9歳)」では、特定スポーツの技術ではなく、基礎運動スキル(走・跳・投・捕・蹴・登・転がる・バランス・水中動作)を楽しく経験することが推奨される。「FUN」が大文字なのは、この時期に楽しさを欠くとスポーツからの離脱率が上がるため。早期特化はほとんどの種目で推奨されない。

限界: 理論モデル(コンセプチュアルフレームワーク)であり、全段階を直接検証した縦断研究はモデル提案時点では限られていた。その後、本モデルを支持する複数のレビュー・実証研究が報告されているが、種目特性や文化差を踏まえた適用が必要。

Côté & Vierimaa 2014 Science & Sports, 29, S63-S69

研究デザイン: Developmental Model of Sport Participation(DMSP)の15年間の研究蓄積をまとめたレビュー論文

対象: 幼児期から青年期までのスポーツ参加と長期的な競技成績・継続率に関する世界各国の研究

主要結果: ・「サンプリング(複数種目を経験する)」期を経た選手の方が、長期的な競技継続率と生涯にわたる身体活動量が高い ・早期特化が向くのは、一部の審美系・アクロバティック系種目(体操・フィギュアスケート・ダイビングなど)に限定される ・早期特化型種目であっても、ケガ・燃え尽き・社会的孤立のリスクとのバランスを検討すべき ・サンプリング期(おおよそ6〜12歳)は、「楽しさを目的とした多様な身体活動」「複数の組織化スポーツの経験」が推奨される

限界: レビュー論文であり、新規データの提示ではない。種目ごとの最適な特化開始時期は、種目特性によって異なる。文化・社会経済的背景による違いは追加検証が必要。

Strong Brenner & AAP Council on Sports Medicine and Fitness 2016 Pediatrics, 138(3), e20162148

研究デザイン: 米国小児科学会のクリニカルレポート(系統的レビューに基づく専門家パネルの推奨)

対象: 若年アスリート(就学前から思春期まで)におけるスポーツ早期特化と集中的トレーニングに関するエビデンスを世界各国の研究からレビュー

主要結果: ・12歳ごろまでは、複数のスポーツに参加することで、ケガ・ストレス・燃え尽きのリスクが減る ・多くのスポーツでは、思春期後期(15〜16歳ごろ)まで特化を遅らせる方が、競技目標の達成可能性が高い ・幼少期からの単一スポーツ特化は、使いすぎ外傷・心理的ストレス・スポーツからのドロップアウトと関連する ・体操・フィギュアスケート・ダイビングなど早期特化型種目では、別途、成長期の使いすぎ外傷・摂食障害(特に女子審美系)・燃え尽きへの注意が必要

限界: 政策ステートメント自体は新規研究ではなく、専門家パネルによる推奨。スポーツ種目によって最適な特化開始時期は異なる点に注意。文化・地域による違いは追加検証が必要。

文部科学省 幼児期運動指針策定委員会 2012 文部科学省

研究デザイン: 文部科学省による政策ガイドライン(専門家委員会によるレビューと推奨の整理)

対象: 日本の幼児(おおむね3〜6歳)の身体活動と運動発達

主要結果: ・「多様な動きが経験できるように様々な遊びを取り入れること」「楽しく体を動かす時間を確保すること(1日合計60分以上)」「発達の特性に応じた遊びを提供すること」の3つを基本とする ・幼児期は「特定の運動」よりも「動きの多様性」を獲得する時期と位置づけ ・体力・運動能力の向上だけでなく、「運動好き」「運動を楽しむ姿勢」を育てることが将来の運動習慣の土台になる、と整理 ・運動の指導は、技術指導よりも遊びの中での自然な経験を優先

限界: ガイドラインであり、実証研究そのものではない。海外のWHO 2019年ガイドライン(5歳未満の幼児)は「中強度以上の活動を合計60分以上、合計の身体活動は180分以上」と整理しており、目安の置き方には少し違いがある。

Lloyd & Oliver 2012 Strength and Conditioning Journal, 34(3), 61-72

研究デザイン: 既存のLTADモデルを発展させた Youth Physical Development(YPD)モデルの提案論文

対象: 幼児期から青年期までの身体発達と能力獲得の最適な順序

主要結果: ・幼児期(就学前)は、「基礎運動スキル(FMS)」と「神経筋協調性(neuromuscular control)」の獲得が中心 ・最大筋力、最大持久力、最大スピードなどの本格的トレーニングは、思春期前後以降が適切 ・LTADの単一線形モデルとは異なり、男女別・能力別の発達カーブを示し、より柔軟な発達観を提示 ・幼児期は「楽しく多様な動きの経験」が、後の能力獲得の土台になると整理

限界: 概念モデルであり、モデル全体を検証した縦断研究はモデル提案時点では限られていた。文化・遺伝的背景による発達差は追加検証が必要。

Logan, Robinson, Wilson, & Lucas 2012 Child: Care, Health and Development, 38(3), 305-315

研究デザイン: メタ分析(2〜18歳を対象とした基礎運動スキル介入研究11編を統合)

対象: 米国・欧州を中心とした2〜18歳の子ども(合計サンプル数は研究横断で数百〜千人規模)

主要結果: ・構造化された運動プログラム(コーチや指導者が介入するもの)は、自然な発達単独よりも基礎運動スキルの獲得を有意に促進する(効果量 d=0.49、p<0.05) ・効果は「移動系スキル(走・跳・スキップ)」と「物体操作系スキル(投・捕・蹴)」の両方で示された ・介入期間が長いほど、効果が大きい傾向 ・幼児期の介入も学童期の介入も、ともに有意な効果を示した

限界: 含まれる介入の種類は多様で、「体操プログラム」「ダンスプログラム」「PE授業」「一般運動指導」などが混在。「体操特有の効果」を分離した分析ではない。長期追跡(成人期までの転帰)を行った研究は含まれていない。