プログラミング教育、何歳から始めるのがいいの?
なぜこの話題が気になるのか
「2020年から小学校でプログラミングが必修になった」── そう聞いて、5歳のお子さんを持つお母さんなら、こんな思いがよぎることがあります。
- 小学校で必修なら、その前から準備しておかないと、入学してから困るのでは
- 周りのお友だちは、もうプログラミング教室に通い始めているらしい
- でも、5歳でパソコンに向かわせるのは、スクリーンタイム的にどうなんだろう
- そもそも「プログラミング教育」って、コードを書くことなの? 5歳の子に何ができるの?
書店やSNSには「未就学から始めるプログラミング」「プログラミング的思考は早ければ早いほど」といった見出しが並び、教室の体験案内も多く流れてきます。一方で、「小学校でやるのに、わざわざ未就学から?」「画面に向かわせる時間が増えるだけでは?」という、もっともな疑問も同時にあります。
結論を先に言うと、研究と公的資料を素直に読む限り、「未就学のうちに教室に通わせなくては」と焦る必要はありません。けれども、家庭で日常的に育てられる土台はたくさんあります。本記事では、その整理をお届けします。
まず、「プログラミング教育」の中身を確認する
「プログラミング教育」と聞くと、多くの方が「コードを書く」「キーボードを叩く」イメージを持ちます。実は、これがまずひとつ目のすれ違いです。
文部科学省が目指しているのは「コードを書ける子」ではない
小学校プログラミング教育の手引(第三版)
は、小学校プログラミング教育のねらいを次のように整理しています。
- 「プログラミング的思考」を育むこと(順序立てて考え、組み合わせで意図する動きをつくる力)
- プログラムの働きやよさ、情報社会が情報技術によって支えられていることに気づくこと
- 各教科で学ぶ知識を、より確実に身に付けさせること
明確に書かれているのは、「特定のプログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得することは目標ではない」という点です。算数や理科などの既存の教科の中で、「順序立てて考える」場面としてプログラミング的な活動を取り入れる、というのが基本設計です。
つまり、小学校が必修化したのは「Python が書ける子を育てる」ではなく、「手順を分解し、組み立て、試して、修正するという思考のクセを育てる」ことです。
「Computational Thinking」── 順序立てて考える力
この「プログラミング的思考」の元になった概念が、カーネギーメロン大学のジャネット・ウィングが2006年に提唱した「Computational Thinking(計算論的思考)」です。
Communications of the ACM 誌に掲載された、Computational Thinking(計算論的思考)を「コンピューター科学者だけでなく、すべての人に必要な基礎的な思考スキル」として位置づけた論考
の中で、ウィングは次のような要素を挙げています。
- 問題を分解する(大きな課題を小さな部分に分ける)
- パターンを見つける(似ている部分を見抜く)
- 抽象化する(余計な情報を省いて本質を取り出す)
- 手順を組み立てる(順番と条件で意図した結果をつくる)
これは、コンピューターを使わなくても、たとえばお弁当の準備、お片付け、お料理の手順を考える場面に、日常的に現れる思考様式です。「プログラミング教育」が育てたい力の正体は、この日常の中の思考の延長線上にあります。
研究は何を言っているのか
所見1:幼児期に Computational Thinking は育てられる(画面ありの場合)
「Computational Thinking と言われても、5歳児にできるの?」── これに対して、もっとも参照される研究のひとつが、タフツ大学のマリーナ・バースらによる幼児ロボティクスのカリキュラム研究です。
幼児(4〜7歳)を対象に、KIBO ロボットと CHERP プログラミング言語を使った計算論的思考のカリキュラムの効果を調査した、Computers & Education 誌の研究
では、20時間のカリキュラムを通して、幼児が順序立て(シーケンシング)、ロボットの動きの予測、デバッグ(間違いの修正)などの計算論的思考のスキルを身につけられたことが報告されています。
ポイントは、ここで使われている「ロボット」と「プログラミング言語」が、幼児の発達段階に合わせて設計されていることです。
- KIBO は、ブロックを並べて命令を作る木製のロボット(画面を使わない)
- CHERP は、文字を読めない幼児でも操作できる、絵と物理ブロックの言語
つまりこの研究は、「5歳に Python を教えよう」ではなく、「5歳の発達段階に合った道具と活動なら、順序立てて考える力は育てられる」ことを示したものです。
所見2:ScratchJr のような幼児向け環境でも育つ
幼児向けのビジュアルプログラミング環境として、もっとも広く使われているのが ScratchJr(スクラッチジュニア)です。MIT メディアラボとタフツ大学の DevTech Research Group が共同で開発した、5〜7歳向けの無料アプリです(iPad、Android、Chromebook で利用可能)。
ScratchJr を使った幼児・低学年児童のプログラミング学習で、教師の指導スタイルがどのように学習成果に影響するかを調査した研究
は、ScratchJr を導入した園・小学校低学年の子どもたちが、命令の順序、シンボルの意味、簡単な制御構造を理解できるようになったことを示しています。さらに、教える側が「答えを与える」より「一緒に試行錯誤する」スタイルを取ると、子どもの理解と探究が深まることも報告されています。
ScratchJr は、文字を読めなくても操作できるよう、命令が「絵のブロック」で表現されています。「キャラクターを動かす」「ジャンプさせる」「音を鳴らす」などのブロックを並べて、自分の物語やゲームを作れる設計です。
ここで強調したいのは、ScratchJr のような環境を「使ったほうが将来有利」と研究が示しているわけではないということです。研究が示しているのは、「使えば、こういう力が育つ場面が確認される」までで、「使わない子と比べて、将来の学業や職業で差がつく」までは言われていません。
所見3:プログラミング学習の本質は「創造的な遊び」にある
MIT メディアラボの「Lifelong Kindergarten」グループを率いるミッチェル・レズニックは、Scratch の生みの親としても知られる研究者です。
MIT Press から刊行された『Lifelong Kindergarten: Cultivating Creativity through Projects, Passion, Peers, and Play』
は、プログラミング学習を「コードを覚える」ことではなく、「幼稚園の砂場で起きている創造的な学び方」の延長として位置づけることを提案しています。レズニックが示すキーワードは「4つのP」── Projects(自分のプロジェクトを作る)、Passion(夢中になれるテーマ)、Peers(仲間と一緒に)、Play(遊びの精神で)です。
この見方からすると、未就学のお子さんが、
- 積み木で「お城」を作る
- お絵描きで物語のシーンを描く
- 「お母さんごっこ」で順序のあるお話を演じる
といった遊びをしているとき、すでにレズニックの言う「4つのP」を全部やっています。プログラミング教育の本質的な土台は、未就学期の遊びそのものの中にすでにある、というのが、この研究伝統の核心的な主張です。
4つの所見をどう読むか
整理すると、研究と公的資料は次のような姿を描いています。
- 「プログラミング教育」のねらいは、コードを書く技能ではなく順序立てて考える力(文科省、Wing)
- 幼児の発達段階に合った道具なら、計算論的思考は確かに育つ(Bers ら、Strawhacker ら)
- ScratchJr など5〜7歳向けの無料環境も存在する(MIT・タフツ大)
- プログラミング学習の本質は、未就学期の創造的な遊びと地続き(Resnick)
「未就学のうちに教室で習わせないと小学校で困る」を支持する研究は、現時点では見当たりません。むしろ研究は、家庭の日常の遊びと、5〜7歳向けの選択肢の両方を、無理なく組み合わせる方向を示しています。
「画面なし」と「画面あり」── 両方に効果がある
家庭でできることを考えるとき、いきなり ScratchJr に行かなくても、画面なしの活動からでも十分に始められます。Bers らの研究で使われた KIBO ロボットも、画面なしの設計でした。
画面なしでできる活動
Unplugged
積み木の手順を口に出して説明する。迷路を「右、右、上」と矢印で書いてみる。お料理の手順を絵カードに分解して並べる。ロボットおもちゃ(命令カードで動く木製・電動の玩具)。すごろくや簡単な戦略ボードゲーム。「お母さんロボット」遊び(子どもが命令を出して大人が動く)。
画面ありの選択肢
Screen-based
ScratchJr(5〜7歳向け、MIT・タフツ大開発の無料アプリ)。Viscuit(ビスケット、原田康徳氏開発の国産アプリ、4歳から)。コードカラピラー、コーディングロボットなど、画面と物理を組み合わせる玩具。本格的な Scratch は8歳以上が目安。
研究的に重要なのは、どちらか一方が「本物」というわけではないということです。Bers らも Resnick も、子どもの発達段階と興味に合わせて、画面なし・画面あり・物理ロボットを柔軟に組み合わせることを推奨しています。
教材や活動の年齢の目安は、各教材の公式情報・関連研究をもとに編集部が整理したもの。お子さんの興味と発達には個人差があり、目安より早い・遅いことは問題ではありません。
出典:ScratchJr 公式(MIT・タフツ大学 DevTech Research Group)、Viscuit 公式(デジタルポケット)、Bers ら(2014)、文部科学省「小学校プログラミング教育の手引」(2020)
画面なしでできる「家庭のプログラミング遊び」
未就学期の家庭で、特別な教材を買わずに始められる活動を、研究の整理に沿っていくつか紹介します。
1. 「手順を言葉にする」遊び
「これからお母さん、お料理を作るね。最初に何して、次に何して、最後に何するか、一緒に決めようか」── これだけで、もう「手順を組み立てる」体験になります。
- お風呂に入る順番(服を脱ぐ→体を洗う→湯船に入る→出る→拭く→着る)を絵カードで並べる
- 朝の準備の順番を、一緒にホワイトボードに書いてみる
- 「もし雨が降ったら、長靴を履く。もし晴れたら、運動靴を履く」のような「もし〜なら」を会話に混ぜる
これらは Computational Thinking で言う「手順の組み立て」「条件分岐」のもっとも素朴な体験です。お金もアプリも要りません。
2. 「お母さんロボット」遊び
子どもが「命令する側」、大人が「ロボット役」になる遊びです。
- 子どもが「右に3歩」「左に1歩」「腕を上げて」のような命令を出す
- 大人はその通りに動く(命令にないことはしない、というルール)
- 目的地(おもちゃ箱、玄関など)まで「プログラム」で連れて行ってもらう
これは Bers らの研究で使われている「アンプラグド(画面なし)プログラミング」の典型的な活動です。子どもが「あいまいな命令だと、ロボットは動けない」ことに気づく瞬間が、抽象化と精緻化の最初の体験になります。
3. 迷路・すごろく・簡単なボードゲーム
迷路を解く、すごろくのコマを進める、「猫とねずみ」のような追いかけっこ系のボードゲームをする── これらは、「次にどうするか」を予測して計画する練習になります。
- 迷路に矢印を書き込んで「経路」を作る
- 一手先・二手先を読む簡単なボードゲーム(オセロの簡易版など)
- 道案内ゲーム(地図に印をつけて「ここからここまでの最短経路は?」)
特別な「プログラミング玩具」を買わなくても、家にある絵本・パズル・ボードゲームで、十分に同じ思考が育ちます。
4. ロボットおもちゃ(必要なら)
もう少し体験を広げたいなら、未就学から使える命令カード式のロボットおもちゃもあります。代表的なのは、
- コードカラピラー(Fisher-Price、3歳〜):いも虫の各節が「前進」「左右」などの命令で、つなぎ替えると動きが変わる
- KIBO ロボット(KinderLab Robotics、4歳〜):木製のロボットに、命令の書かれた木のブロックを並べてバーコードでスキャンする
- LEGO の幼児向け組み立てロボット(BOOST、WeDo など、年齢ガイドあり)
いずれも、画面を使わずに「順序を並べると物が動く」体験ができる設計です。価格帯は数千円〜数万円までさまざまですが、「未就学のうちに買わないと出遅れる」というものではありません。お子さんが命令系の遊びに強い興味を示したら検討する、くらいで十分です。
画面ありの選択肢 ── ScratchJr と Viscuit
5歳になって、文字や記号に興味を示し始めたお子さんには、画面ありの選択肢もあります。研究で言及されることが多いのは ScratchJr、国内で広く使われているのは Viscuit です。
ScratchJr(スクラッチジュニア)
- 開発:MIT メディアラボの Lifelong Kindergarten Group + タフツ大学 DevTech Research Group + Playful Invention Company
- 対象:5〜7歳
- 価格:無料(iPad / Android / Chromebook)
- 特徴:文字を読めなくても操作できる絵のブロック。キャラクターを動かし、ジャンプさせ、音を鳴らし、自分の物語やゲームを作る
- 研究上の位置づけ:Bers らの研究グループが開発に関わっており、幼児の計算論的思考研究の中心的なツールのひとつ
Viscuit(ビスケット)
- 開発:原田康徳氏(元 NTT 基礎研究所)とデジタルポケット
- 対象:4歳〜
- 価格:無料(iPad / Android / Web版)
- 特徴:「メガネ」と呼ばれる単一の仕組みで、絵を動かしたり、ゲームやアニメーションを作る。自分で描いた絵を動かせる
- 国内の位置づけ:文部科学省の手引でも「未就学・小学校低学年で扱える教材例」として参照される
どちらも、「子どもが自分の絵を動かす、物語を作る」という創造系の遊びとして設計されており、Resnick の「4つのP」(Projects, Passion, Peers, Play)に近い使い方ができます。
スクリーンタイムの中での位置づけ
ScratchJr や Viscuit を家庭で使う場合、デバイスとしてはタブレットやスマホそのものです。米国小児科学会(AAP)・WHO ともに、2〜5歳のスクリーンタイムは1日1時間以内が目安とされており、プログラミング系のアプリも、この枠の「内側」で考えるのが自然です。詳しくは スクリーンタイムの記事 や 知育アプリの記事 を併せてご参照ください。
「教育的だから別枠」という扱いは、研究的には支持されていません。動画を減らして、その枠でプログラミングアプリを使う── くらいのバランス感が、現実的な落とし所です。
プログラミング教室に通わせるかどうか
「未就学からプログラミング教室に通わせるべきか?」というのは、よく聞かれる質問です。研究の整理と、現状の教室の実情を踏まえて、率直に整理します。
教室に通うことが活きやすいケース
Likely to help
お子さんがすでにロボットおもちゃやアプリで創作に熱中している。家庭では引き出せない題材(本格的なロボット、3Dプリンタ等)に触れたい。教室の「仲間と一緒に作る」環境(Resnick の Peers)を体験させたい。
教室に通うことが必須でないケース
Not necessarily needed
「小学校で必修化されたから準備しなきゃ」が主な動機。お子さんが特に興味を示していない。家庭で十分に手順・順序の遊びができている。家計や送迎の負担が大きい。
研究と公的資料の整理からは、「未就学からの教室通いが、小学校以降の有利・不利を決める」エビデンスはありません。文部科学省の手引も、未就学期の準備を必要としていません。
一方で、お子さんが強く興味を示している、家庭では難しい体験(ロボット製作、仲間との共同作業など)を求めている── そういう場合の選択肢として、教室は意味を持ちえます。「通わなければならない」ではなく「お子さんと家庭の状況に合えば、選択肢のひとつ」というのが、現時点での誠実な整理です。
対話パート
娘が5歳で、来年から年長です。小学校でプログラミングが必修になったって聞いて、未就学のうちから何かやっておかないと、入学してから困るんじゃないかと心配で。プログラミング教室の体験案内もよく来るんですけど、5歳でパソコンに向かわせるのも、なんだか抵抗があって。
お気持ち、よく分かりますよ。先にお伝えしておくと、文部科学省の手引を読む限り、小学校のプログラミング教育のねらいは「プログラミング的思考」、つまり「順序立てて考える力」を育てることなんです。コードを書ける子に育てるのが目標ではなくて。
そうなんですか? てっきり、キーボードを打って Python を覚えさせるみたいなものかと…。
そう思われがちなんですが、小学校では特定のプログラミング言語を覚えることは目標になっていません。算数や理科の中で「順序立てて考える場面」としてプログラミング的な活動を取り入れる、という設計です。それで、お子さんが今やっている遊び ── 積み木でお城を作る、迷路を解く、ごっこ遊びで物語を演じる ── これらが、すでに「順序立てて考える力」の土台になっているんです。
え、そうなんですか? じゃあ、もう娘は何か始めているということ?
はい。MIT のレズニックという研究者は、プログラミング学習の本質は「幼稚園の砂場で起きている学び方」の延長だと書いています。自分のプロジェクト、夢中になれるテーマ、仲間との共同、遊びの精神 ── この4つが、プログラミングでも砂場でも大事だ、という考えです。お子さんがいま積み木に夢中になっているなら、その時間が、もう「土台づくり」なんです。
そう聞くと、すごく安心します。でも、何か追加でしたほうがいいこともありますか?
あれば良い、なくても構わない、というくらいの位置づけで2つお伝えしますね。ひとつは、画面を使わない遊び。「お母さんロボット」遊びといって、お子さんが「右に3歩」「左に1歩」と命令して、お母さんがロボット役で動く、というものです。あいまいな命令だと動けない、というルールにすると、お子さんは「あ、命令ってちゃんと順番が大事なんだ」と気づきます。
それなら、今日のお風呂上がりにでもできそうですね。
はい、お金もアプリも要りません。もうひとつは、もしお子さんがアプリの絵を動かすことに興味を示したら、ScratchJr というアプリがあります。MIT メディアラボとタフツ大学が共同で作った、5〜7歳向けの無料アプリです。文字を読めなくても、絵のブロックを並べてキャラクターを動かせます。ただ、これは「やらせなきゃ」ではなく、お子さんが食いついたら一緒に触ってみる、くらいの感覚で十分です。
無料なんですね。教室に通わなくても、家で試せるんですね。
そうなんです。教室は、お子さんがすでに夢中になっていて、家庭では引き出せない体験(本格的なロボットや仲間との共同制作)を求めるようになったら検討する、という順番でいいと思います。「小学校必修だから未就学から教室」というのは、研究の整理からは必須ではない、というのが正直な答えです。
実際にやるならどうするか
研究と公的資料を踏まえて、未就学期の家庭でできることを整理します。
1. 「すでにやっている遊び」を見直してみる
積み木、お絵描き、ごっこ遊び、迷路、すごろく、ボードゲーム ── これらは、すでに Computational Thinking の土台です。「プログラミングの準備として新しいことを足す」より前に、いま家庭でしている遊びの中で、お子さんが「順序を考えている瞬間」を意識して言葉にしてあげるところから始められます。
- 積み木で「最初に大きいのを置いて、次に細いの、最後にてっぺん」と言いながら作る
- お絵描きで「最初にお顔を描いて、それから髪の毛、それから服」と順序を口に出す
- お片付けで「まず大きいおもちゃから、それから小さいのを上に」と分類する
「すごいね、ちゃんと順番考えてるね」と一言かけるだけで、お子さんの中で「順序を意識する」が遊びの一部になります。
2. 「お母さんロボット」遊びを取り入れる
家事の合間や、お風呂上がり、寝る前の数分でできる遊びです。お子さんが命令する側、大人がロボット役。「あいまいな命令だと動けない」というルールにすると、抽象化と精緻化の最初の体験になります。
- 「右に3歩」「左を向いて」「腕を上げて」のような明確な命令を出してもらう
- 「あっち行って」のようなあいまいな命令には、ロボット役が「分かりません」と返す
- 目的地まで「プログラム」で連れて行ってもらう
これは Bers らの研究グループも推奨しているアンプラグド(画面なし)活動の典型です。
3. ロボットおもちゃは「興味を見てから」
コードカラピラー、KIBO、LEGO の幼児向けロボットなど、命令カード式のロボットおもちゃは、未就学期の選択肢として研究的にも支持されています。ただし、「未就学のうちに買わないと出遅れる」というものではありません。お子さんが命令系の遊びに強い興味を示したら、誕生日やお祝いのタイミングで検討する、くらいで十分です。
知育玩具全般の選び方については、知育玩具の記事 も併せてご参照ください。
4. 画面系は「興味を示したら」、まず無料アプリから
お子さんが「お母さんのタブレットで絵を動かしたい」と興味を示したら、ScratchJr や Viscuit のような無料アプリから始められます。どちらも子どもが自分の絵やキャラクターを動かす設計で、Resnick の「4つのP」に近い体験ができます。
- ScratchJr:5〜7歳向け、絵のブロックでキャラクターを動かす、英語圏発だが日本語対応
- Viscuit(ビスケット):4歳〜、自分で描いた絵を「メガネ」で動かす、日本発・国内で広く使われる
導入する場合は、お子さんと一緒に画面を見て、「これ、どう動かしたの?」「こうしたらどうなる?」と会話しながら使うのが、研究の含意にもっとも近い形です。アプリ全般の使い方は 知育アプリの記事 もご参照ください。
5. スクリーンタイムの枠の中で考える
プログラミング系のアプリも、デバイスとしてはタブレット・スマホです。AAP・WHO ともに2〜5歳で1日1時間以内が目安としており、プログラミングアプリもこの枠の内側に入れて考えるのが自然です。「教育的だから別枠」は研究的には支持されていません。動画と置き換えるイメージで考えると、現実的に運用できます。
6. 教室は「必須」ではなく「選択肢のひとつ」
未就学からのプログラミング教室通いが、小学校以降の有利・不利を決める ── というエビデンスは、現時点ではありません。お子さんが強く興味を示している、家庭では難しい体験(本格的なロボット、仲間との共同制作)を求めている、という場合の選択肢として位置づければ十分です。「通わせなくては」と焦る必要はありません。
締めの対話
今日のお話で、「必修化=未就学からの準備」じゃないんだ、というのが、すごく腑に落ちました。娘が今やっている積み木やごっこ遊びが、もう「土台」なんですよね。
そうなんです。お母さんが、お子さんと一緒に手順を口に出したり、「次どうする?」と聞いたりする時間 ── それが、研究で言う「順序立てて考える力」の、いちばん大事な土台です。教室や教材は、お子さんが興味を示したらの選択肢、くらいの位置づけで十分です。
プログラミングって、もっとガチガチに「やるかやらないか」みたいに思っていたんですけど、もっと柔らかいものなんですね。
はい。レズニックという研究者の言葉を借りれば、プログラミング教育は「幼稚園の砂場で起きている学び方」の延長です。お子さんが砂場で「お城を作って、お堀を掘って、橋をかけよう」と計画しているとき、すでに大事なことの大半が起きているんですよ。
今日帰ったら、お風呂上がりに「お母さんロボット」遊び、やってみます。
ぜひ。お母さんが楽しそうにロボットになるのを見て、お子さんはきっと大喜びだと思いますよ。「あいまいな命令だと動けない」のルールを守りすぎて、お母さんが部屋の真ん中で固まってしまう ── そんな瞬間こそ、お子さんにとっては最高の学びだったりします。
研究の詳細
Primary sources研究デザイン: 概念整理・提唱論考
対象: 「Computational Thinking(計算論的思考)」を、コンピューター科学者だけでなくすべての人に必要な基礎的な思考スキルとして位置づける概念枠組み
主要結論: 計算論的思考は「問題を分解する・パターンを見つける・抽象化する・手順を組み立てる」といった要素から成る思考様式であり、コンピューターを使うかどうかとは独立に、日常の問題解決に応用できる。「読み書きそろばん」に並ぶ基礎リテラシーとして、初等教育から段階的に育てることが望ましい、と提案。後の K-12 プログラミング教育・日本の「プログラミング的思考」概念の理論的基盤となった。
限界: 単独の実証研究ではなく概念提唱の論考。具体的な指導法・効果の検証は、後続の研究(Bers ら、Strawhacker ら 等)に委ねられている。
研究デザイン: 幼児ロボティクスのカリキュラム実践研究(混合研究法)
対象: 米国の幼児教育現場の4〜7歳児を対象とした、20時間の TangibleK Robotics Program(KIBO ロボット + CHERP プログラミング言語)カリキュラム
主要結果: カリキュラムを通して幼児が順序立て(シーケンシング)、ロボットの動きの予測、デバッグ(間違いの修正)などの計算論的思考スキルを身につけられた。文字が読めない段階でも、物理的なブロックや絵で命令を表現すれば、幼児がプログラミングの本質的な要素を扱えることを示した。早期幼児教育における「アンプラグド(画面なし)+物理ロボット」のアプローチの可能性を示す代表的研究。
限界: 特定のカリキュラム・特定の道具を用いた実践研究で、対照群比較は限定的。長期的な学業成績への影響は本研究の射程外。
研究デザイン: 教室実践観察と学習成果の量的・質的分析
対象: ScratchJr を用いた幼児・小学校低学年(5〜7歳)のプログラミング学習における、教師の指導スタイルの違いと学習成果の関連
主要結果: ScratchJr を導入した子どもたちは、命令の順序、シンボルの意味、簡単な制御構造を理解できるようになった。教える側が「答えを与える」より「一緒に試行錯誤する」スタイルを取ると、子どもの理解と探究が深まる傾向が観察された。家庭での導入にも示唆的で、保護者が「正解を示す」より「一緒に試す」関わり方が望ましいことを支持する。
限界: 教室での観察研究で、家庭環境への直接適用は留意が必要。学習成果の長期追跡は本研究の射程外。サンプル規模は限定的。
研究デザイン: 著者(MIT メディアラボ Lifelong Kindergarten グループ責任者)による30年以上の研究・実践の総括書籍
対象: Scratch プログラミング環境の開発と普及、幼稚園的な創造的学びの哲学
主要主張: プログラミング学習の本質は「コードを書く技能」ではなく、「自分のプロジェクトを、夢中になれるテーマで、仲間と一緒に、遊びの精神で作る」こと(4つのP: Projects, Passion, Peers, Play)。これは幼稚園の砂場で起きている学びと地続きであり、年齢が上がっても学校全体・人生全体にこの学び方を持ち越すべき、という主張。Scratch / ScratchJr の設計思想の背景にある哲学を体系的に示した一冊。
限界: 実証研究ではなく主張・哲学を提示した書籍。具体的な効果検証は別途、関連する実証研究(Bers ら、Strawhacker ら 等)を参照する必要がある。
研究デザイン: 公的ガイドライン(学習指導要領を補足する解説資料)
対象: 2020年度から全面実施された小学校学習指導要領におけるプログラミング教育の基本的な考え方・実施方法
主要内容: (1)小学校プログラミング教育のねらいは「プログラミング的思考」を育むことであり、特定のプログラミング言語の習得・技能習得は目標ではないと明記。(2)プログラミングを独立した教科とせず、算数・理科などの既存教科の中で関連する場面に取り入れる。(3)アンプラグド(画面なし)の活動も、適切に位置づけられれば本教育の一部として認められる。(4)Scratch、Viscuit などの幼児・低学年向け教材が例示されているが、特定の教材の使用が義務付けられているわけではない。
限界: 公的ガイドラインであり、新たな実証データを提供するものではない。各小学校・教師の創意工夫に委ねられる部分が大きく、実施状況は学校間で幅がある。