幼児教育を科学する
発達理論 子どもの発達

創造性・クリエイティビティはどう育てる? ─ Torrance、Csikszentmihalyi、Amabile から読み直す『自由・退屈・失敗』

読了 約15分
5歳児ママ からの相談 — AI時代と聞いて、子どもの『創造性』を伸ばしたい。でも何をすればいいか分からない

なぜこの話題が気になるのか

5歳のお子さんを育てていると、こんな言葉が、あちこちから聞こえてきます。

  • 「AI時代に必要なのは、創造性とクリエイティビティ」
  • 「これからは正解のない時代。発想力が勝負」
  • 「うちの教室では、創造性を伸ばすカリキュラムを採用しています」
  • 「子どもの創造性を引き出す○○教材」
  • 「クリエイティブな子に育てる10のコツ」

書店の幼児教育コーナーにも、SNSにも、教材の広告にも、「創造性」という言葉があふれています。それを見るたびに、「うちの子の創造性、ちゃんと育っているかな」「もっと何かしてあげたほうがいいのかな」と、不安だけが積み上がっていく ── そんなお母さんは少なくないと思います。

ただ、心理学の研究の側に立ち戻ると、創造性は、ひらがなや計算のように「教えれば身につく」ものではありませんし、特定の教室や教材で「鍛える」ものでもありません。むしろ、大人が良かれと思ってやっていることの多くが、創造性を削いでしまっている可能性が、研究では繰り返し指摘されてきました。

本記事では、

  • そもそも心理学では「創造性」を何と定義しているのか
  • 米国で報告された「子どもの創造性スコアの世代低下」は何を意味しているのか
  • 創造性が育つ条件として、研究は何を挙げてきたのか
  • 5歳の家庭で本当にできること(そして、しないほうがよいこと)は何か

を、一次資料に立ち戻って整理してお届けします。読み終わったあと、「特別なものを買い足さなくても、いまの暮らしの中で十分だ」と感じていただけるところまで、ご一緒できればと思います。

「創造性」とは、そもそも何を指すのか

「創造性」という言葉は、日常では「絵がうまい」「アイデアが豊か」「変わったことを思いつく」など、かなり広い意味で使われます。一方、心理学の研究では、もう少し整理された形で定義されてきました。

発散的思考と収束的思考

心理学者 E. P. トーランス が1960〜70年代に開発した Torrance Tests of Creative Thinking(TTCT)は、創造性の研究で最も広く使われてきた測定ツールのひとつです( トーランス(1974 Torrance Tests of Creative Thinking マニュアル )。

TTCT が測ろうとしているのは、おもに次の二つの思考プロセスです。

発散的思考(divergent thinking)

OPEN-ENDED

ひとつの問いから、できるだけ多くの・多様な答えを広げる思考。「レンガの使い道を、思いつくだけ挙げてください」のような課題で測られる。流暢性(数)、柔軟性(カテゴリーの幅)、独創性(他の人が思いつかない発想)、精緻性(細部を詰める力)で評価される。

収束的思考(convergent thinking)

CONVERGE-TO-ANSWER

たくさんの選択肢の中から、いちばん良いものを選び、形にしていく思考。学校のテストで主に測られているのはこちら。創造性も、最終的には「思いついた中から良いものを選んで仕上げる」という収束のプロセスを必ず含む。

世間で「創造性」と聞いて最初にイメージされるのは発散的思考のほうですが、本当に意味のあるアウトプットを生むには、発散と収束の往復が必要だ、というのが研究上の合意です。「アイデアを広げてから絞る」── このサイクルそのものが、創造性の本体です。

Big-C と little-c

もうひとつ、押さえておきたい区分が、心理学者カウフマンとベゲットが整理した Big-C / little-c という考え方です。

  • Big-C(歴史的・社会的な創造性): ピカソやアインシュタインのように、文化や科学を書き換えるレベルの創造性。きわめて稀
  • little-c(日常的な創造性): 新しいレシピを思いつく、子どもが段ボールで秘密基地を作る、いつもと違う道で帰る ── そういう、誰もが日常で発揮している創造性

「創造性を育てる」と聞くと、Big-C を想像して身構えてしまいがちですが、幼児期に育てるべきは圧倒的に little-c のほうです。そして little-c は、特別な才能ではなく、誰もが持っている、ありふれた思考プロセスです。

米国で報告された「創造性スコアの世代低下」── Kim (2011)

創造性の議論で、近年もっとも引用されている研究のひとつが、

キム(2011

心理学誌 Creativity Research Journal に掲載された Kim 氏による大規模分析「The Creativity Crisis」

です。Kim 氏は、1966年から2008年までに米国の幼稚園児〜高校生 約27万人が受けた TTCT のスコアを集約して分析しました。

報告された結果は、おおまかに次のようなものです。

  • 1966年から1990年ごろまで、TTCT の創造性スコアは緩やかに上昇していた
  • 1990年ごろを境に、TTCT の主要スコアが下がり続けている
  • とくに、流暢性・独創性・精緻性などの指標で、有意な低下が観察された(p<0.05)
  • 学齢が低いほど、低下の傾向がはっきり見えた
  • 一方、同じ期間にIQスコアはむしろ上昇傾向(いわゆるフリン効果)を示しており、「頭は良くなっているのに、創造性は下がっている」という対比が浮かび上がった

Kim 氏はこの傾向を「Creativity Crisis(創造性の危機)」と呼び、原因として、

  • スクリーンタイムの増加と、自由遊びの時間の減少
  • 学校教育の「テスト偏重」化(発散的思考より収束的思考の比重が高まる)
  • 子どもの放課後が、構造化された習い事で埋め尽くされる傾向
  • 「正解の早出し」を求める教育文化

などを挙げて議論しています。これらは因果関係としては慎重に扱う必要がある(Kim 自身も論文中で限界として明記)所見ですが、「子どもが自由にぼんやりして、思いつくがままに遊ぶ時間」が減ったことと、創造性スコアの低下が同じ時期に起きているという対応関係は、その後の研究者にも繰り返し言及されてきました。

創造性が育つ条件 ── Csikszentmihalyi の整理

「フロー」の概念で知られる心理学者 ミハイ・チクセントミハイ は、

チクセントミハイ(1996

著書「Creativity: Flow and the Psychology of Discovery and Invention」

の中で、創造的な人生を歩んだ100名近くの研究者・芸術家・思想家への面接調査をもとに、創造性が育つ条件を整理しています。彼の議論を、幼児期の文脈に置き直してみると、次のような要素が浮かび上がります。

1. 知識の蓄積 ── 空っぽからは何も生まれない

「創造性は自由な発想から生まれる」と言われがちですが、チクセントミハイは、何かについての豊富な知識・経験の土台がなければ、そもそも創造的なアイデアは生まれないと繰り返し強調しています。

幼児期の文脈では、これは「お受験的に詰め込む」ことではなく、

  • 絵本をたくさん一緒に読む
  • 季節の自然(虫、葉っぱ、空)を一緒に観察する
  • 美術館・博物館・動物園など、いろいろな場所に連れて行く
  • 家族で旅行する、ふだん行かない場所を歩く
  • ドキュメンタリーや図鑑を、一緒にぼんやり眺める

といった、「世界に対する素材の引き出し」を増やしていくことを意味します。創造性は、何もないところからは生まれません。子どもがいろいろなものを見て、触れて、ふしぎに思った蓄積があって、はじめて「組み合わせる」という創造の素材になります。

2. 自由遊びと退屈な時間

チクセントミハイが繰り返し触れているのが、「何もすることがない退屈な時間」の重要性です。創造的な人々は、ほぼ例外なく、子ども時代に「ぼんやりする時間」「ひとりで自由に過ごす時間」を持っていたと振り返っていました。

これは、5歳の家庭の言葉に置き直すと、

  • 予定が詰まりすぎていない週末
  • 「何しよう」と思う時間が、たまにある
  • スマホやタブレットですぐに退屈を埋めない
  • 「ヒマ〜」と子どもが言っても、すぐに何かを与えない

ということです。退屈は、創造の前段階です。ヒマを与えられた子どもは、最初は不満を言いますが、しばらくすると勝手に何かを始めます。その「勝手に始めた何か」こそが、創造性の発露です。

3. 失敗の許容

創造的な仕事には、必ず大量の失敗が含まれます。「やってみたけどうまくいかなかった」「思った通りにならなかった」── これを、恥でも罰でもなく、当たり前のプロセスとして受け止める環境があるかどうかが、創造性の発達に効くと、チクセントミハイは整理しています。

家庭で言えば、

  • 子どもが描いた絵を、「上手」「下手」で評価しない
  • 工作が崩れても、「失敗だね」ではなく「お、これどうする?」と返す
  • 親自身が、失敗を笑って共有する(「ママ、これ焦がしちゃった」)
  • 「正解は何?」と急がない

といった構えです。失敗が罰になる家庭では、子どもは「失敗しない選択」を最初から選ぶようになり、創造性の発露が抑えられていきます。

4. 多様な経験

新しい組み合わせを生むには、組み合わせる素材の多様性が必要です。同じ習い事ばかり、同じ友達ばかり、同じ場所ばかりではなく、意図的に「いつもと違う」を混ぜていくことが、創造性の素材になります。これも、教材を買い足すという話ではなく、「ふだん行かない公園に行ってみる」「違うジャンルの絵本を借りてみる」程度の、ささやかな話です。

創造性 vs 学力テスト ── 「学力が高い子」=「創造性が高い子」ではない

ここで、よくある誤解にひとつ触れておきます。「IQが高い・テストの点が良い・たくさん知識を持っている子=創造的な子」── これは、研究上、正しくありません。

Torrance を含む多くの研究者が示してきたのは、IQと創造性スコアは、ある程度の閾値(IQ110〜120あたり)を超えると、相関がほぼ消えるということです。つまり、

  • ある程度の知的能力は、創造性の前提として必要
  • しかし、IQが非常に高くても、創造性スコアが高いとは限らない
  • 逆に、IQが標準的でも、創造性が非常に高い子はたくさんいる

という関係です。これは Kim (2011) が示した「IQは上がっているのに、創造性は下がっている」という対比とも整合する話です。

学力テストで主に測られているのは収束的思考(ひとつの正解にたどり着く力)であり、創造性の中心である発散的思考とは、別の能力です。「学校の成績が良ければ、創造性も自動的に高い」とは限らない── ここは、押さえておきたいポイントです。

親が「やってしまうと創造性を削ぐ」こと

ここまでで見えてくるのは、創造性を育てる方向性は「もっと何かをさせる」ではなく、むしろ「やりすぎていることを引く」側にある、ということです。研究で繰り返し指摘されてきた、創造性を削ぐ大人の関わりを、いくつか整理します。

「創造性を育てる玩具・教室」の現実

近年、市場には「創造性を育てる」を謳う教材・教室が大量に流通しています。研究の側から見ると、ここにはひとつの大きな矛盾があります。

それは、「創造性を育てる」と称する商品の多くは、組み立て手順や正解が決まっており、自由度が低い、ということです。たとえば、

  • 説明書通りに組み立てると、決まった形ができるブロックキット
  • 大人が用意したお手本を、同じように描き写すお絵かき教室
  • カリキュラムに沿って、決まった順番で進む「創造性プログラム」

これらは「創造性教材」と呼ばれていても、研究上の創造性の中心(発散的思考・little-c の発露)とは、ほぼ別物です。むしろ、収束的思考・指示通りに遂行する力を育てている、と言ったほうが正確です。

OECD の報告書

ヴァンサン=ランクラン ほか(2019

「Fostering Students’ Creativity and Critical Thinking: What it Means in School」

も、創造性を育てる教育環境の条件として、「選択肢の余地があること、評価が成果物の正解性ではなく試行錯誤に向けられること、子どもが問いそのものを立てられること」を挙げています。決まったキットを決まった通りに作る活動は、これらの条件のいくつかを満たしません。

5歳の家庭の道具で言えば、自由度の高い「素材」のほうが、自由度の低い「キット」よりも創造性の発露につながりやすい、というのが研究の知見と整合する目安です。具体的には、

  • 紙、クレヨン、はさみ、テープ、のり、空き箱、毛糸、葉っぱ、石
  • 自由な形に組めるブロック(「○○のキット」ではなく、汎用の基本ブロック)
  • 砂、土、水、泥
  • ままごとの道具、布、お人形

など、「答えがあらかじめ決まっていない素材」のほうが、創造性の研究上は支持されやすい、ということです。

年齢別の創造性発達

幼児期の創造性は、年齢に応じて少しずつ姿を変えながら、立ち上がっていきます。心理学者ラスは、

ラス(2013

著書「Pretend Play in Childhood: Foundation of Adult Creativity」

の中で、プリテンドプレイ(ふり遊び・ごっこ遊び)を、幼児期の創造性発達の中核として位置づけました。発達の流れを、本サイトの編集部で簡略にまとめると、以下のようなイメージになります。

  1. 2〜3歳

    象徴遊びの始まり

    積み木を「電車」に見立てる、葉っぱを「お皿」にする、空のコップで「ジュース」を飲むふりをする。目の前にないものを別のもので表す「象徴機能」が立ち上がる時期。創造性のいちばん早い芽として、研究上重要な発達段階。

  2. 4〜5歳

    プリテンドプレイの全盛期

    お店屋さんごっこ、ヒーローごっこ、家族ごっこなど、複雑な役割と物語のあるごっこ遊びが豊かになる。Russ (2013) はこの時期のプリテンドプレイの質(物語の豊かさ・感情の織り込み・柔軟さ)が、後の発散的思考・物語創作・問題解決と関連することを示してきた。

  3. 5〜6歳

    計画的な遊び・つくる遊びへ

    「お店屋さんごっこに、こういうメニューを作って、こう並べる」のように、事前に計画して、必要なものを工作で作って、振り返って改善するサイクルが回り始める。発散と収束の往復が遊びの中で起きる時期。

  4. 6歳〜

    プロジェクト型・継続的な創造活動へ

    何日もかけて秘密基地を作る、自分だけの図鑑を編集する、空想世界をノートに書き続けるなど、長期にわたるプロジェクト的な創造活動が立ち上がってくる。大人にできるのは、「邪魔せず、口を出さず、必要な素材だけ提供する」こと。

ここで大事なのは、「プリテンドプレイを大人がリードする」のではなく、子どもが自分で立ち上げるごっこ遊びを、邪魔しない」ということです。Russ の研究が示してきたのは、子ども主導のごっこ遊びの「中身の豊かさ」が、後の創造性指標と関連する、という関係でした。大人が筋書きを与えるごっこ遊びでは、この関連は同じようには出ません。

内発的動機と外発的報酬 ── Amabile の研究

創造性研究のもうひとつの古典が、心理学者 テレサ・アマビル の「内発的動機の原理」です。彼女は、

アマビル(1996

著書「Creativity in Context」とそれに先立つ一連の実験

を通じて、創造性に対する内発的動機(「面白いからやる」)と外発的動機(「ご褒美のためにやる」)の効果を、繰り返し検討してきました。報告されてきた主な結果は、おおまかに次のようなものです。

  • 子どもに自由に絵を描かせるとき、「上手に描けたらご褒美をあげる」と事前に伝えると、創造性の評価が下がる
  • 同じく、「評価されますよ」と事前に伝えるだけでも、創造性は下がる
  • 一方、「面白いからやる」「やりたいからやる」という内発的動機で取り組んでいるとき、創造性の評価は高くなる
  • ご褒美そのものが悪いのではなく、「ご褒美のためにやる」という構造になってしまうと、創造性が削がれる

この知見は、家庭の文脈に置き直すと、

  • お絵かきや工作にシールやスタンプのご褒美をつけない
  • 「上手だね」「賞をもらえるかも」と外的な評価軸を持ち込まない
  • お子さんが「面白がって没頭している」状態を、邪魔しない
  • 「すごいね」より、「お、これどうやって思いついたの?」のように、プロセスに関心を向ける

ということです。創造性は、外から「やらせる」ものではなく、本人の中から「やりたい」が湧いてくる構造を守ることで育つ、というのが Amabile が一貫して主張してきたメッセージです。

5歳児ママ

「AI時代だから創造性が大事」ってよく聞くんです。だから創造性を伸ばす教室を探していたんですけど、それって違うんでしょうか?

ねい先生

その気持ち、本当によく分かります。でも、研究の側から見ると、「創造性を育てる教室」というコンセプト自体に、少し矛盾があるんです。創造性の中心は「自分で問いを立てて、自分で広げて、自分で選ぶ」プロセスなので、誰かが組んだカリキュラムに沿って進めること自体が、創造性とは違う方向の活動になりやすいんです。

5歳児ママ

じゃあ、創造性教材も買わなくていい?

ねい先生

「決まった形に組み立てるキット」のような、自由度の低いものは、研究上は創造性の文脈ではあまり推奨されません。むしろ、紙、はさみ、テープ、空き箱、ブロックの基本ピース ── 何にでもなれる「素材」のほうが、創造性の発露につながりやすいと言われています。すでにご家庭にあるもので、十分なんです。

5歳児ママ

でも、退屈そうにしていると、つい「これやってみる?」って何かを与えちゃうんです。

ねい先生

その「退屈」、研究の世界では、創造性のいちばん大事な栄養のひとつなんです。退屈した子どもは、最初は不満を言いますが、しばらくするとほぼ必ず、自分で何かを始めます。その「自分で始めた何か」が、まさに little-c と呼ばれる日常の創造性なんですよ。

AI時代に必要な「人間の創造性」とは

最後に、「AI時代だから創造性が大事」というメッセージを、研究の側から少し整理しておきたいと思います。

AI が広く使えるようになった現在、たしかに「定型的な作業」「決まった手順を実行する仕事」「正解のある問題を解く」といった領域では、人間の優位性は急速に縮んでいます。一方、

  • 何が問題なのかを定義する(問いを立てる)
  • 複数の領域の知識を、新しい形で組み合わせる
  • 人と関わり、文脈を読み、意味を見つける
  • 「面白い」「美しい」「これがいい」と価値判断する
  • 失敗から学び、方向を変える

といった、発散と収束を行き来しながら、文脈と価値判断を含めて何かを生み出すプロセスは、引き続き人間の中心的な力として残っていく、と多くの研究者が論じています。これらは、まさに本記事で扱ってきた「創造性」の中身そのものです。

OECD (2019) も、これからの教育で育てるべき力として、知識・技能の習得と並んで「創造性」と「批判的思考」を明示的に位置づけました。ただし、その育て方として推奨されているのは、テストや教材ではなく、「子どもが問いを立てられる環境」「試行錯誤が許される環境」「評価が成果物ではなくプロセスに向く環境」であり、本記事でこれまで述べてきた方向と一致しています。

教室や教材で「創造性を鍛える」ことはできません。家庭でも同じです。5歳のお子さんの創造性は、退屈な午後にダンボールで何かを作り始める瞬間、「これ何かな?」とふしぎがる瞬間、絵を描いていて手が止まって考える瞬間に、すでに動いています。それを邪魔しないこと、急がないこと、評価しないこと ── これが、研究の側から見て、いちばん効く関わりです。

「自由・退屈・失敗」を許す環境を ── 家庭でできることの整理

ここまでの研究を踏まえて、5歳の家庭で「やる」というより「整える」べきことを、整理します。

創造性を育てる方向(研究と整合)

FREE, BORED, IMPERFECT

予定が詰まりすぎていない週末をつくる。「ヒマ〜」と言われても、すぐ何かを与えない。自由度の高い素材(紙、空き箱、ブロックの基本ピース)を、いつでも手の届くところに置く。作品を「上手・下手」で評価しない。「お、これどうやって思いついたの?」とプロセスに関心を向ける。失敗を笑って共有する。子どもが集中して遊んでいるとき、邪魔しない。

創造性を削ぐ方向(研究上、要注意)

BUSY, REWARDED, JUDGED

習い事と予定で毎日が埋まっている。退屈した瞬間にスマホやタブレットを渡す。決まった形に組むキットばかりを与える。「上手だね」「賞がもらえるかも」と外的な評価軸を持ち込む。お絵かきや工作にシールやご褒美をつける。子どもが詰まると、すぐに「こうすればいいよ」と手を出す。失敗にがっかりした顔をする。

「右はダメ」という二分法ではなく、5歳という年齢では、左の比重を意識して高くしておくことが、研究の知見と整合する、という目安として読んでください。

締めに

「創造性」「クリエイティビティ」という言葉は、AI時代に向けて、これからますます強く語られるようになると思います。だからこそ、いろいろな教材・教室・プログラムが、この言葉のもとに流通していきます。

ただ、研究の側から見たとき、結局のところ大切なのは、

  • 創造性は、特別な才能ではなく、誰もが持っている思考プロセス(little-c)(Kaufman & Beghetto、Torrance)
  • 育てる中心は、知識の蓄積・自由遊び・退屈な時間・失敗の許容・多様な経験(Csikszentmihalyi 1996、Russ 2013)
  • ご褒美や評価で「やらせる」と、創造性はむしろ下がる(Amabile 1996)
  • 米国で報告された創造性スコアの低下は、「やらせる活動の増えすぎ」と同じ時期に起きている(Kim 2011)
  • 育てる場として推奨されるのは、教室や教材ではなく、子どもが問いを立てられる日常(OECD 2019、Beghetto & Kaufman 2014)

ということです。

5歳のお子さんが、ダンボールに穴をあけて、テープでぐるぐる巻きにして、「これ宇宙船」と言い出す ── その瞬間こそが、研究の側から見て、いちばん豊かな創造性の発露です。大人にできるのは、「うんうん、宇宙船かぁ。どこ行くの?」と返すこと、宇宙船が崩れても急いで直さないこと、そして次の週末も、ダンボールが手の届く場所にあるようにしておくこと ── それくらいです。

特別な教材を買い足さなくても、創造性を伸ばす習い事に通わせなくても、研究の知見からみて「効く」とされている要素は、すでに、ご家庭の日常の中で起きています

5歳児ママ

今日のお話を聞いて、「もっと何かしてあげなきゃ」と思っていた焦りが、少しゆるみました。むしろ、いまの暮らしのままで大丈夫そう、というか。

ねい先生

その焦り、すごくよく分かります。「AI時代」「これからは創造性」って言われると、何か対策を打たなきゃと身構えてしまうんですよね。でも、研究の側から見ると、対策として「教材を増やす」「教室に通わせる」方向に走ると、かえって逆効果になりやすいんです。

5歳児ママ

逆効果、というのは…?

ねい先生

予定が詰まると、退屈な時間がなくなります。決まったカリキュラムが入ると、自分で問いを立てる場面が減ります。評価やご褒美がつくと、「自分が面白いからやる」という内発的動機が削られていきます。Kim (2011) も Amabile も、そろってその方向の話をしているんです。

5歳児ママ

じゃあ、今週末、何の予定も入れずに、家でだらだら過ごしても、それでいい?

ねい先生

むしろ、研究的にはそれがいちばん効いている時間です。お子さんが「ヒマ〜」と言って、しばらくしたあとに何かを始めた瞬間 ── そこが、創造性が動き出しているサインなんですよ。安心して、何の予定もない週末を過ごしてみてください。

研究の詳細

Primary sources
Torrance, E. P. 1974 Personnel Press(技術マニュアル)

研究デザイン: 創造的思考の標準化された測定ツール(Torrance Tests of Creative Thinking, TTCT)の開発・標準化に関する技術マニュアル

対象: 米国の幼児〜成人を含む数万人規模の標準化サンプル。流暢性・柔軟性・独創性・精緻性などの指標で評価。

主要結果: 創造性を「発散的思考」を中心とした測定可能な思考プロセスとして操作化。図形課題と言語課題で構成され、世界各国の研究で半世紀にわたって用いられてきた。一定の予測的妥当性(後年の創造的成果との関連)も別の追跡研究で報告されている。

限界: 創造性のすべての側面を測れるわけではなく、Big-C のような歴史的創造性は対象外。文化差・時代差の影響を受ける。スコアの解釈は文脈依存。

Strong Kim, K. H. 2011 Creativity Research Journal, 23(4), 285-295

研究デザイン: 1966年から2008年までに米国で TTCT を受けた幼稚園児〜高校生 約27万人のスコアを統合した、横断的な世代比較分析

対象: 米国の幼稚園児〜12年生(高校生)。標準化された TTCT 図形・言語課題のスコアを利用。

主要結果: 1966〜1990年ごろまでスコアは緩やかに上昇していたが、1990年ごろから流暢性・独創性・精緻性などの主要指標で有意な低下(p<0.05)が観察された。学齢が低いほど低下傾向が強かった。同時期にIQはむしろ上昇傾向(フリン効果)を示しており、IQと創造性が逆方向に動いたことを指摘。

限界: 因果関係を直接示すものではなく、原因(自由遊びの減少、テスト偏重、スクリーンタイム、構造化された活動)はあくまで議論として提示。文化・地域は米国に限定。TTCT 自体が創造性のすべてを測れるわけではない。

Russ, S. W. 2013 American Psychological Association(単著モノグラフ)

研究デザイン: ラスとその共同研究者による、プリテンドプレイ(ふり遊び)と創造性の関連を扱う一連の研究をまとめた専門書

対象: 主に幼児〜小学校低学年。Affect in Play Scale(APS)などを用いて、ごっこ遊びの質(物語の豊かさ・感情の織り込み・柔軟さ)を測定し、後の創造性指標(発散的思考、物語創作課題、問題解決課題など)との関連を分析。

主要結果: 幼児期のプリテンドプレイの質が、後の発散的思考・物語創作・対人問題解決と中程度の関連を示すことを、複数の縦断研究と介入研究から議論。プリテンドプレイは、認知的柔軟性・象徴機能・感情の表現と統合・対人視点取得など、創造性の基盤要素を同時に動員する活動として位置づけられる。

限界: 個別の研究はサンプルサイズが必ずしも大きくない。プリテンドプレイの「質」の評価には判定者間信頼性の問題が残る。文化差の検討は限定的。

Csikszentmihalyi, M. 1996 HarperCollins(一般書・面接調査ベース)

研究デザイン: 各分野で歴史的に重要な貢献をしたとされる、現存の創造的人物約100名への半構造化面接調査+著者の長年のフロー研究の総合

対象: ノーベル賞受賞者を含む、芸術・科学・思想・実業領域の高度に創造的とされる成人(欧米を中心)。子ども時代から創造的キャリアまでを振り返って語ってもらった。

主要結果: 創造性は「個人 × 領域(分野の知識) × 場(分野コミュニティの評価)」の相互作用として立ち上がる。創造的な人々はほぼ例外なく子ども時代に膨大な知識・経験の蓄積と、ひとりで過ごす時間・自由な探究の時間を持っていた。フロー体験(没頭)を可能にする内発的動機、失敗を許容する家庭・職場環境、複数領域の経験の交差が共通要素として浮かび上がった。

限界: 振り返り面接に基づくため、想起バイアスを排除しきれない。Big-C の事例研究であり、幼児期の little-c への外挿は別の研究を要する。サンプルは欧米中心。

Strong Amabile, T. M. 1996 Westview Press(著書、先行する実験研究群を統合)

研究デザイン: 著者による1970〜90年代の一連の実験(子ども・大学生・社会人を対象)と、創造性の社会心理学に関する理論的整理を統合した専門書

対象: 子どもの自由制作課題(コラージュ、お絵かき、詩作)、大学生の創造性課題、企業の創造的職務など、複数領域のサンプル。

主要結果: 創造的活動への「事前のご褒美の約束」「評価されることの予告」「期待される作品の指定」は、いずれも作品の創造性評価を低下させる。これに対し、内発的動機(面白いからやる)で取り組んでいるときに、創造性評価は高くなる傾向。著者はこれを「内発的動機の原理(Intrinsic Motivation Principle of Creativity)」として整理。後の研究で、外的報酬の効果は条件によって複雑に変動する(情報的な報酬は必ずしも害にならない)ことも報告されているが、評価的・統制的な外的圧力が創造性を削ぐという中心的な所見は広く支持されている。

限界: 創造性の評価は専門家による合意的アセスメント技法(CAT)に依存しており、絶対的指標ではない。文化差(西欧と東アジアでの違い)は別の研究で議論されている。

Beghetto, R. A., & Kaufman, J. C. 2014 High Ability Studies, 25(1), 53-69

研究デザイン: 学校環境と創造性の関連に関する理論的レビュー論文

対象: 主に学齢期の子ども(幼児期にも応用可能な原理を含む)を対象とした、教育心理学・創造性研究の文献レビュー。

主要結果: 創造性が育つ教室環境の条件として、「子どもが問いを立てる余地」「不確実性を許容する雰囲気」「正解を急がない」「成果物より試行錯誤を評価する」「教師自身が創造性に対して開かれた態度を持つ」を整理。逆に、テスト偏重・標準化重視・教師主導の正解探しは、創造性の発露を抑制すると論じる。Four C Model(Big-C/Pro-c/little-c/mini-c)の枠組みを学校文脈に適用。

限界: 理論的レビューであり、新規データの提示はない。学校文脈中心で、家庭文脈への直接的な含意は別の研究を要する。

Vincent-Lancrin et al. (OECD) 2019 OECD Educational Research and Innovation(公式報告書)

研究デザイン: OECD の Centre for Educational Research and Innovation(CERI)が主導した、11か国・約800校・数千人の教師と生徒を含む、創造性と批判的思考の指導に関する国際介入プロジェクトの報告書

対象: 参加国の初等・中等学校(年齢は5〜18歳をカバー)。教師は OECD が提供した創造性・批判的思考のルーブリックと指導素材を用いた授業を実施し、効果を比較。

主要結果: 創造性と批判的思考は、専用の教科ではなく、既存の教科活動の「設計の仕方」を変えることで育てられると結論。具体的には、子どもが自分で問いを立てる余地、複数の解釈・解法を許容する課題設定、評価が成果物の正解性ではなくプロセスに向かう仕組みを推奨。教師の指導の質と環境設計が、教材そのものより重要であると整理。

限界: 多国間プロジェクトのため、文化・教育制度の違いを十分に統制できない。長期的な追跡(成人期の成果)はまだ評価されていない。初等・中等学校が中心で、幼児期への直接的な外挿は別の研究を要する。