子どもが本当に伸びる、ほめ方のコツ──「すごいね!」の一歩先
なぜ「ほめ方」がこんなに気になるのか
4歳のお子さんと過ごしていると、一日に何十回と、こんな言葉がご自分の口から出ているのではないでしょうか。
- 「わー、すごいね!」
- 「えらいね、お片付けできて!」
- 「上手!天才かも!」
- 「いい子だね」
ほめて育てたい。ほめて自己肯定感を伸ばしたい ── そう思って意識的に言葉を選んでいるうちに、いつのまにか「すごい」「えらい」が口ぐせになり、ふと、「これでいいのかな?何でもほめすぎていないかな?」と立ち止まる瞬間が、来る方が多いと思います。
そこに追い打ちをかけるように、SNSや育児書からは、
- 「能力をほめると挑戦しない子になる」
- 「努力をほめましょう」
- 「結果ではなくプロセスを」
- 「成長マインドセットを育てよう」
といったメッセージが飛び込んできます。読めば読むほど、「うちは何でも『すごい』って言ってきたけど、まずかったかな」と不安になってしまう ── そんな声も、よく聞きます。
本記事では、
- そもそも「能力ほめ」「努力ほめ」とは、研究のうえで何を指しているのか
- ドゥエックの古典研究(Mueller & Dweck 1998)は、本当のところ何を示したのか
- 家庭での日常的なほめ方は、子どもにどう影響しているのか(Gunderson ら 2013)
- 近年の大規模メタ分析(Sisk ら 2018)はどう言っているのか
- では、4歳のご家庭で、明日から無理なくできることは何か
を、一次資料に立ち戻って、誠実に整理していきます。先に結論をお伝えしておくと、これまでの「すごいね」を全部やめる必要は、まったくありません。
ほめ方の3つの型 ── 何が、どう違うのか
研究で扱われてきたほめ方を、まずは整理してみます。
能力ほめ
PERSON / TRAIT PRAISE
子どもの「持っている力・性格・才能」をほめる。例:「賢いね」「天才!」「絵の才能あるね」「○○ちゃんはやさしい子だね」「えらいね、いい子だね」。研究では person praise(人物への賞賛)・trait praise(特性への賞賛)と呼ばれる。短期的にはうれしいが、失敗したときに「自分は賢くない子なんだ」と自己評価が揺らぎやすい、と報告されている。
努力ほめ
PROCESS / EFFORT PRAISE
子どもの「やったこと・取り組み方・工夫」をほめる。例:「がんばったね」「いろいろ工夫したね」「最後まで考えたね」「やり方を変えてみたんだね」。研究では process praise(プロセスへの賞賛)と呼ばれる。失敗しても「やり方を変えればいい」と捉えやすく、挑戦を続ける傾向と関連することが、複数の研究で示されている。
事実ほめ
DESCRIPTIVE FEEDBACK
評価の言葉をあえて添えず、起きたことを言葉にして返す。例:「最後まで描けたね」「自分で靴はけたね」「赤と青を混ぜたんだね」「お皿をテーブルまで運んでくれたね」。研究の中では「具体的・記述的フィードバック」として扱われることが多い。子どもが自分の行為を意識化しやすく、「ほめられるためにやる」になりにくい、と整理されている。
ここで大事なのは、「能力ほめ=悪、努力ほめ=善」という単純な二分法ではないということです。「賢いね」「すごいね」と言われて育った子が、みんな挑戦しない子になるわけではありませんし、「がんばったね」と言い続ければ自動的に粘り強い子になるわけでもありません。
ただ、長く繰り返し聞く言葉は、子どもが自分自身をどう捉えるかに、じわじわ影響していく ── これは、複数の研究で支持されてきた知見です。以下、その代表的な研究を、原典に立ち戻って見ていきます。
ドゥエックの古典研究(Mueller & Dweck 1998)── 何を、どう示したのか
「能力ほめ vs 努力ほめ」の議論の出発点となったのが、心理学者キャロル・ドゥエックと、その大学院生だったクラウディア・ミューラーによる、
科学誌Journal of Personality and Social Psychology に掲載された一連の実験論文「Praise for Intelligence Can Undermine Children’s Motivation and Performance」
です。
実験のセットアップ
対象は、米国の5年生(10〜11歳)約400名。研究チームは、子どもたちにある程度難しい問題(レイヴン課題と呼ばれる、図形のパターンを完成させる知能テスト風の課題)を解いてもらい、その後で、ランダムに3つのグループに分けて、それぞれ違う言葉でフィードバックしました。
- 能力ほめ群:「すごいね、本当に頭がいいんだね(You must be smart at these problems)」
- 努力ほめ群:「すごいね、本当によくがんばったね(You must have worked hard at these problems)」
- 統制群:結果だけ伝える(「いい点数だったね」)
その後、子どもたちには、
- もっと難しい問題と、もっと簡単な問題、どちらに挑戦したいか
- 難しい問題に挑戦して失敗したあと、どう感じるか
- 失敗のあと、どれくらい成績が落ちるか
- 自分の成績を、ほかの子に伝えるとき、正直に言えるか
など、いくつかの追加課題が用意されていました。
何が分かったのか
論文に報告された主な結果は、次のようなものでした。
- 能力ほめ群の子は、その後の課題で「もっと簡単な問題」を選ぶ傾向が強かった。失敗して「自分は賢くないんだ」と思いたくないため、安全な道を選ぶように見えた
- 一方、努力ほめ群の子は、難しい課題に挑戦することを好んだ。「もっと学べる」「やればできる」という方向性で動機づけられていた
- 難しい課題で失敗を経験させたあと、能力ほめ群の子は課題への興味を失い、楽しさが減り、その後の成績まで落ちた
- 努力ほめ群の子は、失敗のあとも興味と楽しさを保ち、次の課題でもむしろ成績が良かった
- さらに驚くべきことに、能力ほめ群の子の約4割が、自分の点数をほかの子に伝える場面で、実際より良い点数を申告(=嘘の申告)した。「賢い自分」のイメージを守るために、事実をゆがめてしまったと解釈されている
ドゥエックらはここから、「能力をほめることは、子どもに『自分は固定的な賢さ・才能を持っている』というイメージを与え、その評価を守るために挑戦を避けるようになる」と論じました。これがいわゆる「固定マインドセット(fixed mindset)」の議論の出発点であり、後にドゥエックの一般向け書籍
『Mindset: The New Psychology of Success』(邦訳『マインドセット「やればできる!」の研究』)
で、世界的な「成長マインドセット(growth mindset)」ブームへとつながっていきます。
この研究を読むときの注意点
この研究はとても有名で、TEDトークや育児書、企業研修にまで引用されてきましたが、原典に当たると、いくつか注意したい点もあります。
- 対象は5年生(10〜11歳)であり、4歳の家庭にそのまま当てはめられるかは別問題
- 1回限りの実験室介入(短時間のフィードバック)であり、家庭での年単位の関わりとは性質が違う
- 「能力ほめ」と「努力ほめ」を、わざと極端に対立させた条件設定になっている。家庭で「賢いね」と「がんばったね」を両方言うような、現実に近い状況を直接調べたわけではない
- 米国の小学校文化(competitive な雰囲気)で行われており、日本の家庭にそのまま当てはまるかも、検討の余地がある
それでも、「ほめ方の質的な違いが、子どもの動機づけに影響しうる」という枠組みを、心理学に持ち込んだ意義は非常に大きく、その後の家庭研究・教育研究の基礎になっていきます。
家庭でのほめ方は、本当に5年後まで影響するか(Gunderson ら 2013)
「実験室の話は分かった。でも家庭で、お母さん・お父さんが日常的にかける言葉は、どうなんだろう?」── そんな疑問に直接答えようとしたのが、
シカゴ大学のグループが Child Development 誌に発表した縦断研究「Parent Praise to 1- to 3-Year-Olds Predicts Children’s Motivational Frameworks 5 Years Later」
です。
研究のしかた
研究チームは、米国の53組の親子を対象に、
- 子どもが1歳・2歳・3歳のとき、家庭を訪れて90分間の親子のやりとりをビデオで撮影(計3回)
- 撮影された大量の会話の中から、親が子どもをほめている場面を全部抜き出し、研究者が「能力ほめ(person praise)」「努力ほめ(process praise)」「その他のほめ(other praise:「いい子だね」「good」など特定しにくいもの)」のどれに該当するかを分類
- その5年後(子どもが7〜8歳のとき)に、同じ子どもたちの「動機づけのフレームワーク」(失敗をどう捉えるか、難しさにどう向き合うか、能力は伸ばせると思っているかなど)を質問紙で測定
という、たいへん手間のかかる縦断デザインを採用しました。
何が分かったのか
報告された主な結果は次のようなものです。
- 親のほめ言葉のうち、平均すると「努力ほめ」は全体の約18%、「能力ほめ」は約16%、残りの約66%は「いい子だね」「good」のような特定しにくい一般的なほめだった
- 1〜3歳のうちに「努力ほめ」を多く受けていた子ほど、5年後(7〜8歳時点)に「能力は努力で伸ばせる」という考え方(=成長マインドセット寄りの動機づけ枠組み)を強く持っていた
- この関連は、家庭の社会経済的地位や子どもの語彙力などを統計的に統制しても残った
- とくに男児では、努力ほめの割合と、5年後の成長マインドセット的な考え方との関連が、より明確に見えた
ここで大事なのは、「割合」の話だということです。「能力ほめが0%、努力ほめが100%」のような極端な家庭はそもそも存在しません。研究に参加した家庭でも、ほとんどの親が両方の言葉をかけていて、「どちらが多めか」というバランスの違いが、5年後の差として見えてきた、というのがこの研究の慎重な書き方です。
── ただし、ここで反論側も(Sisk ら 2018)
ここまでの話だけだと、「やっぱり努力ほめがいい!成長マインドセットを育てよう!」という結論で終わりたくなります。本サイトの編集方針として、研究の解釈が分かれる領域では、反対側の研究も同じ熱量でお伝えするようにしています。
成長マインドセット研究には、近年、強い批判も出ています。とくに重要なのが、
心理学の主要誌Psychological Science に掲載された二つのメタ分析「To What Extent and Under Which Circumstances Are Growth Mind-Sets Important to Academic Achievement?」
です。
何を分析したのか
この研究は、それまでに行われた成長マインドセットに関する研究を集めて統合した、大規模メタ分析(複数の研究の結果をまとめて分析する手法)です。具体的には、
- 第1メタ分析:成長マインドセット(マインドセットの強さ)と学業成績の相関を調べた273研究、合計約36万5,000人のデータを統合
- 第2メタ分析:成長マインドセットを育てる介入を行った43研究、合計約5万7,000人のデータを統合
という、これまでの成長マインドセット研究の中でも飛び抜けて大規模なものです。
何が分かったのか
報告された結論は、成長マインドセット推進派には厳しいものでした。
- マインドセットと学業成績の全体的な相関は、非常に弱い(r ≈ 0.10)。統計的には有意でも、実生活で大きな違いになるレベルではない
- 成長マインドセットを育てる介入の全体的な効果も、非常に小さい(d ≈ 0.08)。投じたコスト・労力に見合うかは疑問が残る
- ただし、「学業面で困難を抱えている子」「社会経済的に不利な立場の子」では、介入の効果がやや大きく見えたサブグループもあった
- 全体としては、「成長マインドセットさえ身につければ学力が伸びる、という強い主張は支持されない」と結論
つまり、「能力ほめより努力ほめ」が動機づけに影響することと、「成長マインドセット介入で実際に学力が伸びるか」は、必ずしも一致しないということが、近年明らかになってきているのです。
では、ドゥエックの研究は否定されたのか
「成長マインドセットは効果なし」というセンセーショナルな見出しがネットには出回っていますが、これはこれで言いすぎです。研究の現在地は、おおよそ次のような整理に落ち着いてきています。
- ドゥエックらが見つけた「能力ほめのあとは挑戦を避けがち、努力ほめのあとは挑戦に向かいがち」という短期的な現象は、複数の研究で繰り返し確認されている
- ただし、「成長マインドセットを意図的に教える介入プログラムが、長期の学業成績を大きく押し上げる」という強い主張は、メタ分析では支持されていない
- 効果が見えやすいのは、すでに学業で困難を抱えている子・不利な立場の子に対する、丁寧な介入の場合
- 家庭での日常的なほめ方の選び方(Gunderson ら 2013 のような)と、学校で行われる短期介入プログラム(Sisk ら 2018 が分析した多く)は、別物として考えるのがフェア
家庭での話に限れば、「努力やプロセスをほめる言葉を少し多めにする」程度の小さな調整は、研究的にも『有害ではなく、むしろ少し追い風』の方向性です。一方、「成長マインドセットを伸ばすドリル」「マインドセット教材」のような大げさな介入には、研究の側からはまだ慎重な距離を置くのが安全 ── これが、両側の研究を並べて見たときの、誠実な現在地です。
4歳のご家庭で、明日からできること
ここまでの研究を踏まえて、4歳のお子さんとの日常で、無理なくできることを整理していきます。これまでの「すごいね」「えらいね」を全部やめる必要はない ── ここをまず確認したうえで、いくつかの小さな工夫を、ご紹介します。
1. 「すごいね」のあとに、具体を一言足す
これがいちばん簡単で、いちばん効きます。
- 「すごいね」 →「すごいね、最後まで集中して描けたね」
- 「えらいね」 →「えらいね、自分から片付け始めたんだね」
- 「上手!」 →「上手!赤と青を混ぜたら紫になるって発見したんだね」
「すごい」「えらい」は否定しなくて大丈夫です。そのあとに、「何が起きていたか」を具体的に言葉にするだけで、「能力ほめ」が「努力ほめ」「事実ほめ」に変身します。お子さんも、「自分のどこを見てもらえたか」が伝わって、より深い満足を感じやすくなります。
2. 結果ではなく、過程を見つける
4歳のお子さんは、まだ「結果」をきれいに作れないことのほうが多い時期です。だからこそ、結果より過程をほめるのが、自然と研究と整合します。
- 折り紙が途中でぐしゃっとなっても →「むずかしいところ、何回もたたみ直していたね」
- 自転車で転んでしまっても →「こわかったのに、もう一回乗ってみたんだね」
- 絵が想像と違う仕上がりになっても →「こことここの色、自分で決めたんだね」
「うまくできたか」ではなく「どう取り組んだか」に、大人の目線を移すこと。これだけで、お子さんは「結果が出ても出なくても、自分の取り組みは見てもらえる」という安心の中で、次の挑戦に向かえるようになります。
3. 「いい子だね」より「ありがとう」
「いい子だね」は、Gunderson ら (2013) の分類で言うと「その他のほめ(子どもの存在自体への漠然とした評価)」に近く、研究上、もっとも頻度が高い一方で、効果としてははっきり示されていないカテゴリーです。これを少しずつ、
- 「いい子だね」 →「ありがとう、すごく助かったよ」
- 「えらいね」 →「○○してくれて、ママうれしい」
に置き換えると、評価ではなく関係性のメッセージに変わります。「お母さんに評価されるためにやる」ではなく「お母さんと自分の関係の中で、相手が喜ぶことをした」という体験になり、お子さんの社会性の土台にもつながります。
4. 失敗したときは、能力ではなく方法を話題にする
お子さんがうまくいかなくて泣いているとき、つい「大丈夫、○○ちゃんは賢いから次はできるよ」と励ましたくなります。でも、ドゥエックらの研究を踏まえると、ここはあえて、
- 「やり方を変えたら、できるかもしれないね」
- 「どこがむずかしかった?」
- 「もう一回やってみる?それとも、ちょっと休む?」
と、「賢い/賢くない」ではなく「方法・選択」に話題を移すと、「自分の能力が試されている」という重荷を下ろせます。失敗したあとに、ほっと安心できる枠を用意するのは、長期の挑戦力にとって、とても大事な土台です。
5. 何でも「すごい」が悪いわけではない
最後に、これがいちばん大事な点です。
「能力ほめは絶対ダメ」というメッセージは、研究の現在地からは行きすぎです。子育ての中で、「すごい!」「えらい!」と思わず叫んでしまう瞬間は、お子さんへの愛情のあらわれであり、それ自体に何の問題もありません。
研究が示唆しているのは、
- 「能力ほめ」だけが圧倒的に多い状況だと、長期的にはちょっと不利かもしれない
- 「努力ほめ」「事実ほめ」を、日常の中に少し増やすと、ややよさそう
- でも、そのバランスをほんの少し動かすだけで、十分に効いてくる
という、地味で穏やかな方向性です。「これまで全部間違っていた」と自分を責める必要は、まったくありません。
最近、何でも「すごいね」「えらいね」って言いすぎている気がして…。「能力ほめは挑戦しない子になる」っていう話を読むたび、不安になるんです。
その不安、本当によく聞きます。ドゥエックらの研究は影響力が大きかったぶん、「能力ほめは害」というメッセージだけが独り歩きしてしまった面があるんです。
じゃあ、これまで「すごいね」って言ってきたことは、よくなかったんでしょうか…。
全然、そんなことありません。お子さんがうれしそうに何かを差し出してきたときに、お母さんが「すごい!」と返す ── それは、まずお子さんの「見てほしい」という気持ちにちゃんと応えている、応答的な関わりなんです。研究的にも、その応答の質こそが土台です。
じゃあ、何を変えればいいんでしょうか?
変えるというより、足すイメージです。「すごいね」のあとに、「最後まで描けたね」「赤と青を混ぜてみたんだね」みたいな、見たままの一言を足すだけで、研究で言うところの「努力ほめ」「事実ほめ」になります。「すごい」を引き算する必要はないんです。
でも、たとえばお絵かきがぐしゃぐしゃになっちゃったときも、「がんばったね」って言ってあげるべきですか?無理にほめるのもなんだか…。
無理にほめなくていいんですよ。そういうときは、「ここは、何回もやり直してたね」「色をたくさん使ってみたんだね」というふうに、評価の言葉を入れずに、起きていたことをそのまま言葉にして返す。これが「事実ほめ」です。お子さんは、自分の行為をちゃんと見てもらえたと感じます。
なるほど…。「ほめる」じゃなくて「見ていることを伝える」というイメージなんですね。
まさにそうなんです。Gunderson ら (2013) という家庭研究でも、家庭で「努力やプロセスを言葉にしてもらえた子」が、5年後に「やればできる」という考え方を強く持っていた、という結果が出ています。大げさなテクニックではなく、毎日の小さな声かけの積み重ねなんですよ。
よくある誤解を、一つずつ解いておきます
締めに
ほめ方の話は、ともすると「正解探し」になりがちです。「これは能力ほめだから×」「これは努力ほめだから○」と、頭の中で採点しながら子どもに声をかけるのは、お母さん・お父さんにとっても、お子さんにとっても、しんどいものです。
研究の側から見て、いま言えるのは、おおよそ次のようなことです。
- 能力をほめると、子どもがその評価を守ろうとして挑戦を避けやすくなる短期的な現象は、複数の研究で確認されている(Mueller & Dweck 1998 ほか)
- 家庭で「努力やプロセス」をほめる言葉が多めだった子は、5年後により『やればできる』と考えている傾向がある(Gunderson ら 2013)
- ただし、「成長マインドセット介入で学力が大きく伸びる」という強い主張は、大規模メタ分析では支持されていない(Sisk ら 2018)
- 家庭での日常的なほめ方の小さな調整は、研究の知見と矛盾しない、無理のない方向性
そして、4歳のお子さんとの日常で本当にできることは、
- 「すごいね」のあとに、見たままの一言を足す
- 結果ではなく、過程・取り組み方を見つける
- 「いい子だね」を「ありがとう」に少し置き換える
- 失敗したときは「能力」ではなく「方法」を話題にする
- 何でも「すごい」も、思わず出る愛情のあらわれとして、否定しない
という、ごく地味で、しかし毎日たしかにできることばかりです。
「これまで全部、間違っていたかも」と落ち込む必要は、まったくありません。お子さんに「すごいね!」と心から言える瞬間を持てている、それ自体が、ほめ方を考えはじめる土台になっています。
今日のお話を聞いて、なんだか肩の荷がおりました。「能力ほめは絶対ダメ」って思いこんでいて、口にする前にいちいち言い直していたんです。
その「いちいち言い直す」が、いちばん消耗するんですよね。お子さんの方も、お母さんが言葉に詰まっていることを敏感に感じ取りますから、せっかくの「見てほしい」のタイミングを逃しちゃうこともあります。
たしかに…。「ほめ方を間違えたくない」が先に立って、瞬間の喜びを返せていなかった気がします。
まずは、思わず出る「すごいね!」「えらいね!」を、これまで通り大事にしてあげてください。そのあとに、ちょっと余裕があれば「最後まで描けたね」「自分で気づいたんだね」って、見たことを一言足す ── それで研究的には、もう十分すぎるほど整っています。
今日もこのあと、娘がたぶん「ママ見て!」って絵を持ってくるんですけど、明日からはまず「すごい!」って素直に返して、それから何が描けたかを一緒に見てみますね。
それが、研究的にもいちばんおすすめのほめ方です。お子さんは、自分の絵を、お母さんに最後まで一緒に見てもらえたという経験を、しっかり積み重ねていきますよ。
研究の詳細
Primary sources研究デザイン: 6つの実験(ランダム化比較試験)を統合した実験論文
対象: 米国の小学5年生(10〜11歳)計約400名。複数の学校から募集。
主要結果: ある程度難しい問題を解いたあと、「賢いね(能力ほめ)」と言われた群は、その後の課題で簡単な課題を選ぶ傾向が強く、難しい課題で失敗を経験すると、興味・楽しさ・成績が低下した。一方、「がんばったね(努力ほめ)」と言われた群は、難しい課題に挑戦することを好み、失敗後も興味と成績を維持した。さらに、能力ほめ群の約4割が、自分の得点を他者に伝える場面で実際より良い得点を申告するという行動も観察された。
限界: 対象が10〜11歳で、4歳の家庭にそのまま外挿はできない。実験室での1回限りの介入であり、家庭での年単位のほめ方とは性質が違う。能力ほめと努力ほめを極端に対立させた条件設定で、実生活での「両方を使う」状況を直接調べたわけではない。米国の小学校文化を背景にしている。
研究デザイン: 一般向け書籍。著者の研究と、関連する複数の研究をもとに、「固定マインドセット(能力は変えられない)」と「成長マインドセット(能力は努力で伸ばせる)」という枠組みを提示。
対象: 一般読者向け。子どもから大人、教育・スポーツ・ビジネスまで広く論じる。
主要結果: 能力を固定的なものと捉える見方(固定マインドセット)が、挑戦回避・失敗からの回復力低下と関連し、能力を伸ばせるものと捉える見方(成長マインドセット)が、挑戦・粘り強さ・学習の喜びと関連する、と論じている。子どもへのほめ方として、能力ではなく努力・プロセスをほめることを推奨。
限界: 一般向け書籍であり、学術論文ではない。後続の大規模メタ分析(Sisk ら 2018)では、「成長マインドセット介入」の全体的な効果サイズが小さいことが示されており、書籍での主張のうち「介入で学力が大きく伸びる」という部分には疑問が呈されている。書籍の影響で「能力ほめは絶対悪」という単純化されたメッセージが広まった面もある。
研究デザイン: 家庭観察+5年後の追跡(縦断的観察研究)
対象: 米国(シカゴ近郊)の53組の親子。子どもが1歳・2歳・3歳のとき、各回90分の親子のやりとりをビデオ撮影。撮影された親のほめ言葉を「能力ほめ(person praise)」「努力ほめ(process praise)」「その他のほめ」に分類。5年後(子どもが7〜8歳)に、子どもの動機づけ枠組みを質問紙で測定。
主要結果: 親のほめ言葉のうち、平均で努力ほめは約18%、能力ほめは約16%、その他が約66%。1〜3歳のうちに努力ほめの割合が多かった子ほど、5年後に「能力は努力で伸ばせる」という考え方を強く持っていた。家庭の社会経済的地位や子どもの語彙を統制しても関連は残り、とくに男児で関連が明確だった。
限界: 観察研究のため因果関係を断定できない(努力ほめが多い家庭の親は、もともと子どもの努力を見守る姿勢が強い、などの別解釈の余地)。サンプル数が比較的小さい(53組)。米国の家庭で行われた研究で、日本の家庭にそのまま外挿できるかは検討の余地がある。
研究デザイン: 二つの大規模メタ分析(複数の研究を統合する手法)
対象: 第1メタ分析:成長マインドセットと学業成績の関連を調べた273研究、合計約36万5,000人。第2メタ分析:成長マインドセットを育てる介入研究43研究、合計約5万7,000人。
主要結果: マインドセットと学業成績の全体的な相関は r ≈ 0.10 と非常に弱く、介入の全体的な効果サイズも d ≈ 0.08 と非常に小さい。学業面で困難を抱えている子・社会経済的に不利な立場の子のサブグループでは、介入の効果がやや大きく見えた。「成長マインドセットを身につければ学力が伸びる」という強い主張は、メタ分析全体としては支持されない、と結論。
限界: メタ分析の対象は主に学校で行われた介入研究で、家庭での日常的なほめ方の影響そのものを直接調べたわけではない(本記事ではこの区別を明示している)。介入プログラムの内容にはばらつきがあり、効果が小さく見える背景にプログラムの質の問題が含まれている可能性も指摘されている。Mueller & Dweck (1998) で示された「能力ほめ後に挑戦を避ける」現象そのものを否定したわけではない。