幼児教育を科学する
領域別検証 音楽・芸術

美術館・博物館に子どもと行く ── 何歳から、どう楽しむ?

読了 約14分
3歳児ママ からの相談 — 雨の日の選択肢として、また知的な体験を増やしたくて、3歳の子どもと美術館・博物館に行ってみたい。何歳から楽しめるのか、どう連れて行けば親も子も疲れすぎないのか、迷っている

なぜこの話題が気になるのか

「3歳の子どもを、そろそろ美術館や博物館に連れて行ってみたいんです。でも、何歳から楽しめるんでしょうか? 早すぎて、走り回って迷惑をかけるのも嫌だし…」── 子育て世帯から、よく聞かれる相談です。背景には、いくつもの動機と迷いがあります。

  • 知的な体験を増やしてあげたい。家の中の遊びだけだと刺激が足りない気がする
  • 雨の日や猛暑の日の、屋内で過ごせる場所の選択肢が欲しい
  • 家族みんなで楽しめる「お出かけ先」のレパートリーを増やしたい
  • でも、3歳でちゃんと見られるの? 退屈して騒いだら他のお客さんに迷惑では?
  • 「教養になるから」と無理に連れて行って、博物館嫌いにさせたら本末転倒
  • 美術館・博物館・科学館・水族館 ── どれが幼児に向いている?

このテーマは、研究の蓄積が比較的しっかりある領域です。Falk らによる「ミュージアム体験」の研究が30年以上にわたって積み重ねられており、「子どもにとって博物館とは何か」「家族でどう体験すれば豊かになるか」について、整理された知見があります。

美術館・博物館は、もともと子ども向け施設ではない

最初に押さえておきたい前提があります。多くの美術館・博物館は、本来、大人を主な来館者として設計されてきました。展示の高さ、解説文の文字量、館内の静けさのルール ── これらは、長らく成人の鑑賞者を念頭に整えられてきたものです。

ICOM の博物館定義 ── 「研究・教育・楽しみ」の場

国際博物館会議(ICOM)(2022

2022年プラハ大会で改訂された ICOM の博物館定義

は、博物館を「有形・無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関」と位置づけ、その目的を「教育、楽しみ、省察、知識共有のために多様な体験を提供する」としています。

ここで重要なのは、博物館の役割が「子どもの教育」だけに限定されていない、ということです。大人にとっての文化・研究機関である場所に、子連れで訪れる── そういう前提を持っておくと、過剰な期待もしないし、過剰に遠慮もしなくて済みます。

日本でも「博物館法」が改正された(2022年)

文化庁(2022

令和4年(2022年)に約70年ぶりに大きく改正された博物館法

では、博物館の機能として、従来の「収集・保存・展示・調査研究」に加えて、「地域社会との連携」「他の博物館との連携」「文化観光への寄与」などが明示されました。少しずつ「地域に開かれた場」としての役割が、政策的にも強調されるようになってきています。

子育て世帯にとっては、この流れの中で、幼児向けプログラム、ベビーカー貸出、授乳室、子ども向けワークシートなどを整える館が増えてきている、というのが実態に近いところです。一方で、すべての館が子連れに優しいわけではありません。事前に「子連れ向け情報」のページを確認しておくのが現実的です。

年齢別の楽しみ方 ── 「全部見せよう」をやめる

子どもの発達と興味の幅は、年齢で大きく変わります。就学前は、博物館を「短く、好きなものに絞って」体験するのが基本です。

  1. 2〜3歳

    体感型・短時間が基本

    展示を「鑑賞する」というより、『広い空間を歩く・大きなものを見上げる・触れるコーナーで手を動かす』が中心。滞在は30〜60分が目安。こども向け博物館、自然史博物館の動物の剥製や恐竜骨格、科学館のハンズオン展示など、<strong>視覚的に強くて、触れる・動かせる要素</strong>がある場所が向く。「全部見せよう」は禁物で、お気に入りひとつに何度も戻れる方が満足度が高い。

  2. 4〜5歳

    お気に入りに絞って深く

    言葉の理解が進み、興味の方向性が見えてくる時期。「恐竜が好き」「電車が好き」「お姫様が好き」など、<strong>子どもの『推し』に合う展示</strong>を選ぶと集中して見られる。所要60〜90分が目安。同じ展示の前で「これは何をしてるんだろうね」と、親子で想像する対話が楽しめるようになる。

  3. 6〜7歳

    対話型・問いかけ型へ

    ひらがなや簡単な漢字が読めるようになり、解説パネルの一部に自分で目をやる子も出てくる。<strong>「どっちが好き?」「どうしてここに置いてあると思う?」</strong>と問いを投げると、自分なりに考えて答えるようになる。美術館の絵画鑑賞も、対話を通じてなら楽しめる年齢。所要90分前後。

  4. 8歳〜

    本格的な鑑賞も可能

    関心のある分野なら、大人とほぼ同じ時間集中できる。解説文を自分で読み、図録を欲しがり、ミュージアムショップで悩んで本を選ぶようになる。歴史博物館・現代美術館など、<strong>抽象度の高い展示</strong>も楽しめるようになる。所要2時間程度も可能。

種類別 ── どの館が、どの年齢に合うか

ひと口に「博物館」と言っても、性格はかなり違います。3〜6歳の子どもにとっての「相性」を整理すると、おおよそ次のようになります。

幼児が楽しみやすい館

Friendly to young children

<strong>こども向けミュージアム</strong>(キッザニア型ではなく、参加型展示の幼児ミュージアム)。<strong>科学博物館・科学館</strong>(プラネタリウム、触れる展示、動く展示)。<strong>自然史博物館</strong>(恐竜骨格、動物剥製、化石)。<strong>水族館・動物園併設施設</strong>。<strong>大型企業ミュージアム</strong>(乗り物・お菓子など、テーマが具体的)。共通点は『大きい・動く・触れる・カラフル』。

工夫が必要な館

Needs preparation

<strong>美術館</strong>(特に絵画中心の館)── 静かに見る前提で、走り回れない。お気に入りの絵を数点に絞り、短時間で。<strong>歴史博物館</strong>── 抽象度が高く、文字情報が多い。事前に絵本などで興味を温めておく。<strong>現代美術館</strong>── 大型インスタレーションは幼児に響くこともあるが、館によって雰囲気が大きく違うので事前に下調べを。

「幼児が楽しみやすい館」から始めて、年齢が上がるにつれて美術館・歴史博物館も選択肢に入れていく、という順番が現実的です。最初の博物館体験で『つまらなかった』『怒られた』記憶が残ると、その後しばらく博物館嫌いになることがあるので、最初の数回はあえて「絶対に楽しめる館」を選ぶ方が長い目で見て良いです。

親の関わり方 ── 体験を決めるのは「対話」

アンダーソンら(クィーンズランド工科大学)(2002

2〜5歳の子ども127家族を博物館で観察・追跡した研究(Curator 誌掲載)

は、幼児期の博物館体験における「家族の媒介(family mediation)」の重要性を示しています。同じ展示の前にいても、親が「何だろうね」「触ってみる?」と問いかけ、子どもの言葉を受け止めた家族の子は、後日のインタビューで体験を生き生きと再現しました。一方、親が解説を読み上げるだけ、あるいは「早く次行こう」と急かす家族の子は、ほとんど記憶として残らなかったといいます。

指さしと「どう思う?」

幼児との博物館では、『説明する』より『一緒に見る』『指さして、問いを投げる』が効きます。

  • 「これ大きいねえ」「ここ、何があると思う?」(共感と問いかけ)
  • 「お母さんは○○に見えるなあ。あなたはどう?」(自分の感想を先に出して、相手の感想を促す)
  • 「これ、家に飾るなら、どの色がいい?」(自分ごと化する問い)
  • 「あ、さっきの恐竜と顔が違うね」(展示と展示をつなぐ)

「正しい解釈」を教えるのではなく、子どもの『どう見えたか』を引き出して受け止める。これが、Anderson らの研究が示す「子どもにとって意味のある博物館体験」の中心です。

押し付けない・先回りしない

逆に避けたいのは、『これは○○という有名な作品で、〜の時代に〜が描いたんだよ』と解説を始めること。3〜6歳の子どもには、固有名詞や年代の知識はほぼ意味を持ちません。本人が興味を示したら少し補足する、くらいでちょうど良いです。

滞在時間とリズム ── 短く、休憩を必ず

バウワーズ(2012

米国の博物館における幼児プログラミングを概観したレビュー(Journal of Museum Education 掲載)

を含む実務研究は、就学前の博物館滞在について、おおむね一致したガイダンスを示しています。2〜3歳で30〜60分、4〜5歳で60〜90分、6〜7歳で90分前後。これ以上長くなると、子どもの集中・体力の限界を超えて、ぐずり・走り回り・寝てしまう、といった反応が出やすくなります。

「休憩」をスケジュールに組み込む

幼児の博物館体験で最も大切なのは、展示エリアの『途中』で必ず休むこと。多くの館にカフェ・ベンチ・ロビーがあります。30分見たら15分休む、くらいの『見る:休む = 2:1』のリズムが現実的です。喉が乾く前に水分、お腹が空く前におやつ(ロビーや館外で)。

「飽きた」サインが出たら、無理に粘らない

子どもが『もう帰る』『つまらない』『おててが疲れた』と言い出したら、それは博物館体験の自然な終わりです。残り展示を見せようと粘ると、『博物館はつまらない場所』として記憶が固定されてしまいます。『また今度来ようね』と切り上げる方が、次の機会につながります。

レスキューの引き出しを持つ

万一に備えて、いくつか「飽きた時の逃げ場」を用意しておくと安心です。

  • 館内のカフェやレストランで小休止(子連れ歓迎の館も増えています)
  • 中庭・屋上テラスがあれば外気で気分転換
  • ミュージアムショップに早めに移動(後述)
  • 「今日は短かったけど、また来ようね」で潔く撤退

「予定を消化する」より、『楽しい記憶のうちに帰る』方が、長期的にはずっと大切です。

ミュージアムショップとお土産 ── 体験を持ち帰る

博物館体験の最後によく訪れるのが、ミュージアムショップです。ここを「ついで」ではなく、『体験の延長』として位置づけると、ぐっと活きてきます。

  • 絵はがき1枚、シール1枚でも、家に持ち帰って飾ったり工作に使えば、思い出のアンカーになる
  • 図録より、子ども向けの薄い解説本の方が、家で繰り返し開いてくれる
  • 『今日見たもの』に関連するものを選ぶと、後日「これ、博物館で見たね」と話題が続く
  • 高額なものを買う必要はない。『100〜500円の小さなもの』で十分

「お土産は今日見たものの中から選んでね」とルールを決めると、子どもが展示を振り返るきっかけにもなります。

入場無料・割引情報 ── お財布に優しく続けるために

「博物館は高い」と感じる方も多いですが、幼児は多くの館で無料です。小学生未満は入場無料の館がほとんどで、保護者の入場料も工夫すれば抑えられます。

  • 国公立の博物館・美術館は、子どもは無料のところが多い(中学生まで無料の館も多数)
  • 東京・京都・大阪などの国立博物館・美術館では、年に数回「無料観覧日」が設けられる(文化の日、国際博物館の日 5月18日 など)
  • 『ぐるっとパス』(東京・首都圏の約100施設の入場券・割引券をまとめたもの)、関西の『ミュージアムぐるっとパス関西』など、地域ごとの周遊パスがある
  • 企業ミュージアムは無料の館が多い(乗り物・お菓子・電力・通信など)
日本博物館協会(2024

日本博物館協会が定期的に実施する『日本の博物館総合調査』

の最近の調査でも、家族層向けの入館料減免や、未就学児無料の制度を持つ館は多数派です。『お金がかかる場所』というイメージを脇に置いて、まずは無料の館から試してみるのも一つの始め方です。

旅行先での博物館 ── 「お出かけのアクセント」として

旅行に博物館を組み込むと、行き先の理解が深まり、雨の日のリスクヘッジにもなります。ただし、『旅行先での博物館』は、地元での博物館以上に短く切り上げるのが鉄則です。

  • 旅行中は子どもの体力消耗が大きい。60分以内でも十分
  • 観光地のメイン展示館は混雑する。朝一番夕方を狙う
  • 「今日のメインイベント」にせず、『午前中の1時間』『雨が降ったら立ち寄る』くらいの位置づけが続きやすい
  • 旅行記念に絵はがきを1枚、というルーティンも素敵な習慣になる

失敗しがちな行き方 ── 5つの「やりすぎ」

研究と実務の知見から、『良かれと思ってやってしまうけれど、体験を貧しくしてしまう関わり方』を整理します。

やりすぎてしまうこと

Common over-doing

<strong>① 全部見せようとする</strong>(常設展フルコース)。<strong>② 解説を読み上げて教えようとする</strong>。<strong>③ 写真撮影に集中する</strong>(子どもの顔より展示の写真ばかり)。<strong>④ 『これは○○だよ、わかる?』と知識を確認する</strong>。<strong>⑤ 『せっかく来たんだから』と粘って疲れさせる</strong>。

代わりにできること

Better alternatives

<strong>① お気に入り展示を3〜5個に絞る</strong>。<strong>② 解説より『あなたはどう見える?』と問いかける</strong>。<strong>③ カメラは控えめ、目で見て対話する時間を多く</strong>。<strong>④ 知っているかを試すのではなく、一緒に発見する</strong>。<strong>⑤ 楽しい余韻のうちに切り上げる</strong>。

「やりすぎてしまうこと」を読んで、ドキッとされた方もいらっしゃるかもしれません。これらはすべて、『子どもに豊かな体験をさせたい』という親の善意から生まれるものです。けれども、その善意が結果として、子どもにとっての博物館を「疲れる場所」「叱られる場所」「親の機嫌が悪くなる場所」にしてしまうことがあります。『短く、対話多めで、また来たくなるように』── これが、研究と整合的な原則です。

3歳児ママ

雨の日が続いて、家にいるのも限界で、3歳の子と美術館に行ってみようかと思っていたんです。でも、3歳って早すぎませんか? 走り回ったり、騒いだりして、他のお客さんに迷惑をかけないか心配で…。

ねい先生

3歳でも、館を選べば十分楽しめますよ。ただし、『美術館』ではなく、まずは『科学館』『自然史博物館』『こども向けミュージアム』から始めるのが、最初の1回としては安全です。3歳の集中力では、絵画をじっと見るのはかなり難しいので、『大きい・動く・触れる』要素がある場所が向きます。

3歳児ママ

ああ、なるほど。美術館じゃなくてもいいんですね。実は『恐竜展』のチラシが気になっていて。

ねい先生

恐竜骨格は、3歳児にとってかなり強い体験になります。あの大きさ、見上げる感覚 ── 大人でも圧倒されますよね。「うわー、おっきい!」って一緒に声を出して、それで満足して帰っても、十分素敵な博物館デビューですよ。『全部見ようとしない』のが、就学前の博物館の最大のコツです。

3歳児ママ

全部見なくていいんですか? せっかく入場料を払うのに、もったいない気がして…。

ねい先生

気持ちはとてもよく分かります。でも、Falk & Dierking(2013)というミュージアム研究の標準的な枠組みでは、『展示を何個見たか』ではなく『誰とどう体験したか』が学びの質を決める、と繰り返し言われています。3歳の子と恐竜の前で5分立ち止まって「すごいねえ」「これ何食べてたんだろうね」って話す方が、展示を50個流し見るよりずっと豊かな体験です。

3歳児ママ

そう言われると、肩の力が抜けます。あと、退屈そうにしたらどうしようって、それも不安で…。

ねい先生

「飽きたサイン」が出たら、潔く撤退するのが正解です。カフェで休む、ミュージアムショップに早めに移動する、外の空気を吸いに行く。それでもダメなら帰る。『また来たいね』で帰れた日は、大成功です。「今日は短かったね、次はもうちょっといられるかな?」と、次回の予告だけしておくと、博物館が「楽しい場所」として記憶に残ります。

実際にやるならどうするか

研究と実務知見を踏まえて、家庭でのミュージアム訪問の組み立て方を整理します。

1. 最初の数回は「絶対に楽しめる館」を選ぶ

科学館・自然史博物館・こども向けミュージアム・大型企業ミュージアムなど、『大きい・動く・触れる』要素のある館から始める。美術館・歴史博物館は、年齢が上がってからか、特別展でテーマが具体的(恐竜・電車・お菓子など)なときに。

2. 事前に「子連れ情報」をチェック

館の公式サイトに『ベビーカー貸出』『授乳室』『子ども向けワークシート』『キッズスペース』の情報があるかを見ておく。これらが充実している館は、実際に子連れで行きやすいです。

3. 「お気に入り3点」に絞る

事前にWebでざっと展示を見て、『これだけは見たい』を3〜5点に絞る。あとは時間と体力次第。「全部見る」を最初から手放しておくと、当日無理しません。

4. 滞在時間は短めに、休憩を必ず

2〜3歳は30〜60分、4〜5歳は60〜90分、6〜7歳は90分前後。30分見たら15分休むのリズムを組み込む。

5. 「対話多め」で見る

「これ何だと思う?」「どっちが好き?」「ここに何があると思う?」正解を教える代わりに、問いを投げる。子どもの感想を「面白い見方だねえ」と受け止める。

6. 「飽きた」サインで潔く撤退

ぐずり始め、走り回り始めたら無理しない。『楽しい余韻のうちに帰る』方が、次の機会につながります。

7. ミュージアムショップで体験を持ち帰る

絵はがき1枚、シール1枚でもいい。『今日見たもの』に関連する小さなものを選んで、家でも思い出を振り返れるようにする。

8. 「定期的に行く場所」として育てる

一度行って終わりではなく、『近所の科学館に月1回』『年パスを買って好きな館に何度も』といった反復が、博物館を「日常の延長」にしていきます。同じ展示でも、年齢が上がると見え方がまったく変わるので、何度行っても楽しめます。

締めの対話

3歳児ママ

今日のお話を伺って、博物館に対する見方が変わりました。「教養を身につけさせなきゃ」「全部見せなきゃ」って思いすぎていたかもしれません。

ねい先生

Falk & Dierking(2013)や Anderson ら(2002)が、ミュージアム研究で繰り返し示してきたのは、『博物館での学びは、展示そのものよりも、誰とどう体験したかで決まる』ということでした。3歳の娘さんと、恐竜の前で「うわー、おっきい!」と一緒に驚く体験は、それだけで十分価値があります。「全部見せる」「教える」を手放すと、博物館はぐっと楽しい場所になりますよ。

3歳児ママ

あと、無理に粘らずに、短く切り上げていいんですね。「せっかく来たんだから」って粘っていたかも…。

ねい先生

そうなんです。『楽しい余韻のうちに帰る』方が、次の機会につながります。3歳のいまは30〜60分でも十分。「また来ようね」で帰れたら大成功です。博物館は、一度の体験で完結する場所ではなく、年齢を重ねながら何度も訪れて、見え方が変わっていく場所です。今日の30分も、来年の60分も、6歳での90分も、それぞれに意味があります。

3歳児ママ

なんだか、明日の雨予報も楽しみになってきました。近所の科学館に、恐竜の絵本だけ持って行ってみます。

ねい先生

素敵ですね。「短く、対話多めで、また来たくなるように」── この3つだけ覚えておけば、お子さんとの博物館は、ずっと家族の楽しみとして続いていきますよ。

研究の詳細

Primary sources
Strong Falk, J. H., & Dierking, L. D. 2013 Left Coast Press / Routledge(『The Museum Experience Revisited』)

書籍カテゴリー: ミュージアム研究・科学コミュニケーション研究の標準的教科書(1992年初版『The Museum Experience』の改訂・拡張版)

内容: 著者らが30年以上にわたって行ってきた、博物館来館者の行動観察・インタビュー・追跡調査の知見を体系化。博物館での学びをcontextual model of learning(文脈モデル)として整理し、「個人的文脈(動機・興味・事前知識)」「社会的文脈(誰と来たか、どんな対話があったか)」「物理的文脈(展示の作り・動線・館内環境)」の3つの相互作用で学びが決まるとした。またfree-choice learning(自由選択学習)の概念を提唱し、博物館での学びは強制ではなく好奇心ドリブンであることが本質だと整理。

位置づけ: 博物館・美術館・科学館・動物園・水族館など、インフォーマル学習機関の研究で、最も広く参照されているフレームワーク。家族での博物館体験を理解する基礎として、本書の枠組みは今も標準。

限界: 著者ら自身の理論的整理であり、メタ分析や系統的レビューとは形式が異なる。文脈モデル自体の予測力を厳密に検証した実験研究は限定的。それでも、博物館研究者・実務者の共通言語として、世界中で活用され続けている。

Anderson, Piscitelli, Weier, Everett & Tayler 2002 Curator: The Museum Journal, 45(3), 213-231

研究デザイン: 観察研究 + フォローアップインタビュー(混合手法)

対象: オーストラリア・クィーンズランド州の博物館・美術館・科学センターを訪問した2〜5歳の幼児を含む127家族。当日の家族の対話・行動を観察し、その後家庭でのフォローアップインタビューで子どもの体験記憶を確認。

主要結果: 幼児期の博物館体験の質は、展示の豪華さよりも『家族の媒介(family mediation)』── 親が子どもにどう問いかけ、どう応答したか ── に強く依存することを示した。親が「これ何だろうね」「触ってみる?」と対話を促した家族の子は、後日のインタビューで体験を生き生きと再現。一方、親が解説を読み上げるだけ、または急かす家族の子は、体験の記憶がほぼ残らなかった。

限界: オーストラリアの特定地域での観察研究で、サンプル数も大規模ではない。家庭の社会経済的背景による違いも十分には統制されていない。それでも、幼児期の博物館体験における「家族の関わり」の中心的な重要性を示した、この領域の代表的研究。

Bowers, B. 2012 Journal of Museum Education, 37(1), 39-48

論文カテゴリー: 実務レビュー論文(博物館教育の実践現場を整理)

内容: 米国の博物館における幼児期(主に3〜5歳)向けプログラミングの現状と課題を概観したレビュー。幼児向け展示・ワークショップ・家族プログラムの設計原則、滞在時間の目安、保護者の関わりを促す工夫などを整理。

主要結果: 幼児の博物館滞在は、30〜90分程度が現実的であり、それを超えると集中力・体力の限界で体験の質が下がること、触れる・動かせる・体感できる要素が幼児期には特に重要であること、家族の対話を促す仕掛け(問いかけパネル、子ども向けワークシートなど)が体験の質を高めることなどが、現場知見として整理された。

限界: 実証研究のメタ分析ではなく、実務知見と既存研究を統合したレビュー論文。米国の博物館現場が中心で、日本の博物館への一般化には文脈差を考慮する必要がある。それでも、幼児博物館プログラミングの実務指針として、参照される文献。

Strong International Council of Museums 2022 ICOM プラハ大会決議(2022年8月)

資料カテゴリー: 国際的な博物館定義(国際組織の公式文書)

内容: 2022年8月、ICOM(国際博物館会議)プラハ大会で約50年ぶりに大幅改訂された博物館の定義。博物館を「有形・無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関」と位置づけ、その目的を「教育、楽しみ、省察、知識共有のために多様な体験を提供する」と定めた。アクセシビリティ・包摂性・参加性・倫理性・専門性・コミュニティとの協働などが、新定義の中で強調された。

位置づけ: 世界中の博物館・美術館・科学館の自己定義の基盤となる、最も権威ある国際的合意文書。日本の博物館法もこの定義を参照しつつ、国内法整備を進めている。

限界: 定義文書であり実証研究ではない。それでも、博物館が「子どもの教育」だけでなく「社会のための文化機関」として位置づけられているという前提を共有するうえで、欠かせない参照点。

Strong 文化庁 2022 文化庁(博物館法改正関連資料)

資料カテゴリー: 日本の博物館政策に関する公的資料(法改正資料)

内容: 令和4年(2022年)、約70年ぶりに大きく改正された博物館法(令和4年法律第24号)の関連資料。従来の「収集・保存・展示・調査研究」に加えて、『他の博物館との連携』『地域社会との連携』『文化観光その他の活動の推進』が博物館の機能として明示された。登録博物館制度の見直し、博物館の多様化への対応も含まれる。

位置づけ: 日本の博物館行政の方向性を示す公式文書。地域に開かれた博物館、家族・子ども向けプログラムの充実といった流れの法的根拠の一つ。

限界: 法令文書であり、効果検証ではない。実際の館ごとの子連れ対応はばらつきが大きく、事前確認は必須。

日本博物館協会 2024 日本博物館協会(『日本の博物館総合調査報告書』)

調査カテゴリー: 全国規模の博物館実態調査(継続的に実施)

内容: 公益財団法人 日本博物館協会が定期的に実施する、日本の博物館・美術館・科学館等を対象とした総合調査。入館者数、入館料の設定、子ども・家族向けプログラム、教育普及活動の実施状況、施設設備のバリアフリー対応などを網羅。

主要結果: 未就学児の入場無料、小中学生の減免を実施する館は多数派であり、家族層を意識した教育普及プログラムを実施する館も増加傾向。一方、専門人員(学芸員・教育普及担当)の不足、館によって子連れ対応のばらつきがある、といった課題も示されている。

限界: 自記式調査が中心で、館ごとの実態の深さまでは把握できない。それでも、日本の博物館の全体像と、家族層向け対応の現状を把握する基礎資料として、政策立案・研究の双方で参照される。