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批判的検証 学校・園選び

公立 vs 私立小学校 ── 選択の研究と現実

読了 約16分
5歳児ママ からの相談 — 周囲に小学校受験する家庭が増え、公立か私立かを家族で議論しはじめている

なぜこの話題が気になるのか

年中・年長のお子さんを持つご家庭では、ある時期から急にこの話題が浮上します。

  • 知人のお子さんが私立小学校に通っている、または受験を準備していると聞いた
  • 地元の公立小学校の評判が、保護者のあいだで分かれている
  • お受験塾の広告や説明会の案内が頻繁に目に入る
  • 「私立に入れたほうが、結局学力が伸びる」という言説と、「公立で十分」という言説の両方に触れる
  • まわりに合わせるべきか、自分たちの軸で決めるべきか、判断がつきにくい

「公立 vs 私立」の議論は、ネット上でも雑誌の特集でも数多く流通しています。ただ、その多くは個別の体験談や校風紹介であって、大規模な統計や教育研究のレベルで何が分かっているかに立ち戻った整理は、案外少ないものです。ここでは、海外の代表的な研究と日本の公的統計を並べたうえで、ご家庭で判断する材料をお届けします。

日本の小学校の現状 ── 国公立がほぼすべて

研究の話に入る前に、日本の制度上の事実を一度押さえておきます。

文部科学省(2024 令和6年度 学校基本調査(確定値) によれば、日本の小学生総数は約594万人で、そのうち私立小学校に通う児童は約8万人(全体の約1.3%)、国立小学校は約3.6万人(約0.6%)、残る約98%は公立小学校に通っています。米国(私立校率約9%)や英国(独立学校率約7%)と比べても、日本は国公立小学校が圧倒的に主流の国です。

ただし、地域差は大きく出ます。私立小学校の数は首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)と関西圏(大阪・京都・兵庫)に集中しており、地方では物理的に選択肢がほぼ存在しないことも珍しくありません。「公立 vs 私立」という問いそのものが、住んでいる地域によっては成立しないテーマでもある、ということです。

私立小学校の特徴 ── 何が違うのか

私立小学校が公立と異なるのは、主に次のような点です。

公立小学校

Public

設置者: 市区町村 / 入学方法: 学区指定(原則として住所地で決まる) / 教育課程: 文部科学省「小学校学習指導要領」に準拠 / 保護者層: 学区内のあらゆる家庭が混在(SES・職業・価値観の多様性が高い) / 通学: 多くの場合徒歩圏内、地域コミュニティと自然につながる / 年間学習費: 約33.6万円(給食費・学校外活動費含む)

私立小学校

Private

設置者: 学校法人 / 入学方法: 各校の選抜(ペーパー・行動観察・面接)/ 教育課程: 学習指導要領を踏まえつつ独自の特色(宗教教育・少人数制・国際教育・伝統教育など)/ 中高一貫接続: 系列校への内部進学(エスカレーター)を持つ学校が多い / 保護者層: 受験を経た家庭で構成(SES・教育観の同質性が高い) / 通学: 広域から電車通学が一般的 / 年間学習費: 約182.8万円(うち授業料約53.6万円)

私立小学校の核は、「教育課程の独自性」「同質性の高い保護者コミュニティ」「中学・高校・大学への一貫接続」の3点に整理できます。これらは事実として大きな違いですが、「子どもの学力を伸ばす」という観点で見たときの効果は、また別の話になります。

研究は何を言っているのか ── 米国の大規模調査から

ここからが、この記事の核心です。「私立に入れたほうが学力が伸びるのか?」という問いについて、教育研究の世界で何が分かっているのかを見ていきます。

Coleman Report 1966 ── 学校間の差より家庭間の差

教育社会学の古典として今も参照される コールマン(1966 Equality of Educational Opportunity(米国教育省委託の全米調査、約64万人の児童生徒を対象) は、米国の人種統合政策に大きな影響を与えた研究です。コールマンが見出したのは、当時の社会通念に反する次の結論でした。

  • 学校の物的資源(設備・教員給与・教科書)の差は、子どもの学力差をほとんど説明しなかった
  • 学校間の差より、同じ学校内での子ども間の差のほうがはるかに大きい
  • 子どもの学力を最も強く予測したのは、家庭の社会経済的背景(SES)とクラスメートのSES構成

この知見は、その後60年にわたって繰り返し再検証され、「学校種別を変えるだけでは、子どもの学力は思ったほど変わらない」という認識の土台になりました。

Lubienski & Lubienski 2014 ── 公立校のほうがむしろ優位

公立 vs 私立を直接比較した、最も影響力のある近年の研究が イリノイ大学のルビエンスキー夫妻(2014 The Public School Advantage: Why Public Schools Outperform Private Schools(University of Chicago Press) です。

ルビエンスキー夫妻は、米国の全国学力調査(NAEP: National Assessment of Educational Progress)と教育縦断調査(ECLS: Early Childhood Longitudinal Study)の計約30万人規模のデータを用いて、公立・私立・チャータースクールの数学学力を比較しました。生のデータでは私立校の児童のほうが成績が高めに出ていましたが、家庭のSES・人種・親の学歴などの背景要因を統計的に補正(回帰分析・傾向スコア法)すると、結果が逆転しました。

  • SESを補正後、公立小学校の児童は私立小学校の児童と同等か、わずかに上回る数学スコアを示した(統計的に有意、p<0.05)
  • カトリック系私立校・非宗教系私立校いずれも、公立に対する優位性は確認されなかった
  • チャータースクールも、公立に対して優位を示さなかった

この研究は米国の教育政策論争に大きな影響を与えました。「私立校のほうが教育的に優れている」という、社会的に広く流通していた前提が、大規模データの統計補正によって覆されたためです。

Reardon 2011 ── 拡大する SES と学力のギャップ

スタンフォード大学の リアドン(2011 Whither Opportunity? Rising Inequality, Schools, and Children’s Life Chances(Russell Sage Foundation) に収録された研究では、米国の1940年代以降の全国学力調査データを用い、所得階層と学力の関係の経年変化を分析しました。リアドンが示したのは、次の事実です。

  • 家庭の所得階層と子どもの学力の相関は、過去半世紀で約40%拡大した
  • 1970年代から2000年代にかけて、所得上位10%と下位10%の家庭の子どもの学力ギャップは、人種間ギャップを上回る規模まで広がった
  • このギャップの拡大の主因は、就学前から学齢期にかけての家庭の文化資本・学習機会の差であり、学校間の差ではない

つまり、「学校種別の選び方を最適化する」よりも「家庭環境とSESがもたらす機会差」のほうが、はるかに大きく子どもの学力を予測するというのが、米国の教育社会学の到達点です。

日本の私立小学校は selection bias が極端に大きい

ここまで米国の研究を見てきましたが、日本の私立小学校の議論で特に注意が必要なのが、選択バイアス(selection bias)の大きさです。

これは「私立が無意味」という話ではありません。「私立を選んだ理由が『学力を伸ばすため』だけなら、研究的な裏付けは弱い」ということです。私立を選ぶ意味は、後述するように、別の軸で考えるほうが研究とも整合します。

公立小学校の強み

研究的な事実を踏まえると、公立小学校には次のような強みがあります。

  • 地域コミュニティとの自然なつながり:徒歩圏内で通学し、地元の友人関係・行事・自治会と接続する
  • 多様な家庭背景のなかで育つ経験:SES・職業・価値観が異なる子どもと日常的に過ごす(社会性・多様性への耐性が育つ機会)
  • 通学時間が短く、放課後の時間を確保しやすい:習い事・遊び・家庭時間に余裕が生まれる
  • 学費負担が軽い:6年間で約201万円(私立の約1/5)。教育費を中学・高校・大学受験や習い事に回せる
  • 転居・進路変更への柔軟性:転勤・引っ越しの場合も、転校がスムーズ

ベネッセ教育総合研究所の ベネッセ教育総合研究所(2023 「小学生の学校生活に関する調査」 では、公立小学校に通う児童の学校満足度・友人関係の満足度は、概ね高水準であることが示されています。「公立で大丈夫だろうか」という不安は、公的調査の数字を見る限り、過剰に持つ必要のないものです。

私立小学校の強み

一方で、私立小学校にも、研究で否定できない明確な意味があります。

  • 家庭が大切にしたい教育観・宗教観・文化観との一致:キリスト教教育・仏教教育・伝統教育・国際教育など、公立では提供されない方向性
  • 同質性の高い保護者コミュニティ:価値観の近い保護者ネットワークが形成されやすい(メリットでもありリスクでもある)
  • 少人数制によるきめ細かい対応:1クラス20〜30名規模の学校では、教師の個別把握が及びやすい
  • 中学・高校・大学への内部進学(エスカレーター):中学受験・高校受験・大学受験を回避できる選択肢
  • いじめ・問題行動への対応が手厚いケース:全校児童数が少なく、保護者・教師の関係が密な学校では、初期対応が早いことがある(ただし学校差は大きく、私立=必ず対応が良いとは言えない)
  • 独自の探究学習・国際教育プログラム:学習指導要領を超えた独自カリキュラムを実装する学校がある

これらは、「学力を上げる」というより「家庭の教育観を6年間の生活で実装する」という意味で、私立小学校を選ぶ価値になります。

学費と機会費用 ── 12年・16年で見ると

文部科学省(2024 「令和5年度子供の学習費調査」 によれば、年間学習費の総額は公立約33.6万円、私立約182.8万円。6年間で約201万円対約1,097万円、その差は約896万円です。

ただし、私立小学校を選ぶ場合、その先の進路選択も連動することが多くなります。

  • 私立小→私立中→私立高→私立大という一貫進学の場合、6年×3段階で総額1,500万〜2,500万円超
  • 私立小学校を選ぶご家庭の多くは、中学以降も私立を継続する傾向がある
  • 学校外活動費(塾・習い事・受験対策)も、公立小学校に通うご家庭より高めに出る傾向(令和5年度調査:私立小の学校外活動費は年間約81万円、公立の約3.5倍)

これは、家計に対する長期的なコミットメントになります。下のお子さんがいる場合は、人数分の負担が重なります。機会費用(その教育費を、別の用途 ── 中学・高校・大学費用、海外留学、家庭の貯蓄、別の習い事 ── に使った場合の選択肢)を含めて考えるのが、家計判断としては妥当です。

中学受験・内部進学 ── 見落としやすい接続の話

私立小学校を選ぶ際、見落としやすいのが「その学校がどんな中学・高校・大学に接続しているか」という観点です。

  • 系列に中学・高校がある一貫校:内部進学が原則で、中学受験を回避できる(ただし内部進学にも一定の成績要件があることが多い)
  • 系列に大学まである大学附属校:大学までエスカレーターで進める(ただし学部選択に制限があることが多い)
  • 小学校のみの単独校:中学受験で別の学校を目指すことになる(この場合、公立小+塾で中学受験するご家庭との競争)
  • 系列校はあるが内部進学率が低い学校:結局、外部受験が前提になる

「私立小に入れば中学受験しなくて済む」というイメージで選んだら、実は内部進学率が低い学校だった ── というすれ違いは、避けたい誤算です。志望校を検討する段階で、内部進学率・進学先・大学進学実績まで、必ず確認するのが現実的です。

「合う子・合う家庭」の傾向

研究で「私立に合う子」「公立に合う子」のような分類が確立しているわけではありませんが、実務的・現場的に観察される傾向としては、こう整理できます。

  • 私立小学校が合いやすい家庭の傾向:特定の宗教・教育観・文化観を子どもに伝えたい / 同質性の高い保護者コミュニティを望む / 中学・高校・大学受験を回避したい / 少人数の落ち着いた環境を望む / 6年間×3段階の学費に無理がない家計
  • 公立小学校が合いやすい家庭の傾向:地域コミュニティとのつながりを大切にしたい / 多様な家庭背景のなかで育つ経験を重視 / 通学時間を短くし、放課後の時間を確保したい / 教育費を中学受験・大学・留学等に回したい / 引っ越し・転勤の可能性がある

これらは「正解」ではなく、家庭の価値観をたな卸しする際のヒントです。お子さんの気質(大人数の活気が好きか、少人数の落ち着きが合うか)も、見過ごせない要素です。

お受験準備の現実

私立・国立小学校を受験する場合、準備期間は年中の秋〜年長の秋までの約1年強が一般的です。

  • お受験塾:週1〜3回、月謝3〜10万円、年間60〜120万円が一つの目安
  • 家庭学習:ペーパー問題集、巧緻性(工作・お絵かき)、行動観察対策、面接練習
  • 模試:年中後半から年長秋まで、月1〜2回
  • 説明会・学校見学:志望校5〜10校×複数回
  • 受験本番:年長秋(9〜11月)、第一志望〜併願校あわせて3〜10校受験

これは子どもの体力と、保護者(主に母親側に負担が偏りやすい)の体力・時間の両方を要求します。年中・年長は、本来であれば外遊び・自由遊び・絵本・家族時間に多くの時間を割きたい年齢でもあります。受験準備そのものが子どもの育ちに悪影響、と研究で結論されているわけではありませんが、家族のバランスを崩すほどの追い込み方は、結果がどうあれ後悔につながりやすい領域です。

「受験する/しない」を決める前に、「我が家の体力で1年強の受験準備を持続できるか」「お子さんの体調・睡眠・遊びを守れる範囲か」を、家族で率直に確認するのが、後悔の少ない進め方です。

5歳児ママ

周りで小学校受験する家庭が増えてきて、うちもしないと出遅れるんじゃないかと焦っています。私立に入れたほうが、結局は学力が伸びるんじゃないかと…。

ねい先生

その感覚、年中・年長のご家庭で本当によく聞きます。ただ、米国の大規模調査ですが、ルビエンスキー夫妻が2014年に約30万人規模のデータで分析した結果では、家庭の社会経済的背景を統計的に補正すると、公立校の児童は私立校と同等か、わずかに上回るスコアを示したんです。「私立のほうが学力が伸びる」という前提が、研究的には覆された格好で。

5歳児ママ

でも、私立に通っている子のほうが、平均して成績が高いという話も聞きます。

ねい先生

平均すれば、たしかにそうです。ただ、その差の多くは「私立校に入ったから」ではなく「私立校に入る家庭の特徴」で説明できるんです。日本の私立小学校は受験を経て入学する選抜制で、受験できる家庭は所得・学歴・教育関心が偏ります。米国より日本のほうが、この選択バイアスは大きく出ると考えるのが自然です。

5歳児ママ

じゃあ、私立を選ぶこと自体に意味はないんでしょうか?

ねい先生

意味がないわけではないんです。家庭が大切にしたい宗教観・教育観があって、それと合う学校があるとき、少人数で6年間ゆっくり過ごせる環境を望むとき、中学受験を回避して内部進学でいきたいとき ── こうした目的なら、私立を選ぶ意味は十分にあります。研究が言っているのは「学力を上げる手段としての私立」の根拠は弱い、ということなんです。

実際にやるならどうするか

研究と制度の整理を踏まえて、ご家庭で考えるときの視点を整理します。

1. 「学校種別のレース」として見ない

「私立 vs 公立、どちらが上か」というレースの構図で考えるほど、選択は難しくなります。研究が示しているのは、「学校種別という大きな括りでの優劣は、思ったほど明確ではない」ということです。レースから降りて、「我が家にとって、どの選択が無理なく、子どもにとって伸びやかか」に視点を移すのが現実的です。

2. 「家庭文化との相性」で選ぶ

私立小学校の意味の核は、「家庭が大切にしたい教育観・文化観・宗教観を、6年間の学校生活で実装できる」ことにあります。

  • 特定の宗教・伝統文化を子どもに伝えたいか
  • 同質性の高い保護者コミュニティを望むか、多様な家庭背景のなかで育てたいか
  • 中学受験を回避したいか、それとも中学受験で挑戦したいか
  • 少人数の落ち着いた環境を望むか、大人数の活気を望むか

これらに明確な答えがあり、それと合う私立校がある場合、私立を選ぶ意味は十分にあります。逆に、「学力を伸ばすために私立」という動機が主であれば、研究的には支持が弱い選択になります。

3. 通学距離・時間の現実を見る

6歳の子どもが、毎朝7時前後に家を出て、電車を乗り継いで1時間かけて通学する ── これは、6年間にわたって続く日常です。通学時間が長いほど、放課後の自由時間・睡眠・家庭時間が削られるのは事実です。「通学が楽しい」とお子さんが感じる時期と、「疲れる」と感じる時期は、必ず両方訪れます。毎朝の通学を6年間続けられるかを、入学前にイメージしておくのが安心です。

4. 学費の長期計画を立てる

私立小学校を選ぶ場合、6年×3段階(小・中・高)、もしくは12年〜16年の総額で家計を見ます。

  • 私立小→中→高→大の総額:1,500万〜2,500万円超(複数子の場合は人数分)
  • 大学費用・留学費用との両立は可能か
  • 兄弟姉妹の教育費を、同じ水準で確保できるか
  • 親自身の老後資金との両立は

「6年でなんとかなる」ではなく、「16年スパンで家計に無理がないか」を見るのが、後悔の少ない判断です。

5. 子どもの様子を中心に置く

最後に、何より大切なのが、お子さん自身の様子です。

  • 受験準備期に、体調・睡眠・遊びが守られているか
  • 「もう一度言って」「やりたくない」というサインを、見落とさず受け止められているか
  • 合格・不合格の結果が、お子さんの自己評価に直結しないような言葉かけが用意できているか
  • どんな結果でも、「あなたが大切」というメッセージが、お子さんに伝わっているか

「家庭の判断のために、お子さんの今を犠牲にしない」。これは、公立を選ぶ場合も、私立を選ぶ場合も、共通の前提です。

締めの対話

5歳児ママ

お話を伺っていて、「公立 vs 私立どちらが上か」という枠組みそのものが、少し違うのかもしれないと思えてきました。

ねい先生

そう感じていただけたら、研究の整理として伝わっています。Lubienski & Lubienski の研究も、Coleman Report も、Reardon の研究も、結局のところ「学校種別のラベルで子どもの育ちが決まるわけではない」というメッセージを発しています。日本の私立小学校は約1.3%しか選ばれていない選択肢で、約98%のご家庭は公立を選び、その上で多くの子どもが伸びやかに育っています。

5歳児ママ

では、私立を選ぶ意味はどこにあるんでしょう?

ねい先生

家庭が大切にしたい教育観・宗教観・文化観があって、それを6年間の学校生活で実装したいとき。中学受験を回避してゆったり過ごしたいとき。少人数の落ち着いた環境を望むとき。こうした目的に明確な答えがあれば、私立を選ぶ意味は十分にあります。それは「学力を上げる」というより「家庭の価値観を実装する」という意味です。

5歳児ママ

公立を選ぶことが「妥協」のように感じてしまっていたんですが…。

ねい先生

その感覚、本当によく分かります。ただ、研究的に見ると、公立を選ぶことは妥協どころか、家計の柔軟性・地域コミュニティとのつながり・多様な家庭背景のなかで育つ経験など、明確な強みを持つ選択です。日本の約98%のご家庭が公立を選び、その上で多くの子どもが社会で活躍されています。「公立を選ぶ = 標準的で堅実な選択」と捉え直してよい領域です。

5歳児ママ

まだ家族で話し合っていく段階ですが、視点が整理できた気がします。

ねい先生

どうぞご家族で、急がず話してみてください。「家庭が大切にしたい文化」「通学距離の現実」「お子さんの気質」「家計の長期計画」── この4つを軸に整理されると、答えはご家庭の数だけ出ます。公立を選ばれるご家庭も、私立を選ばれるご家庭も、研究的にはどちらも「正解」になり得る領域です。家庭の価値観と地域の選択肢で、自信を持って決めていただいて大丈夫です。

研究の詳細

Primary sources
Strong Lubienski, C. A., & Lubienski, S. T. 2014 The Public School Advantage (University of Chicago Press)

研究デザイン: 米国の全国学力調査(NAEP)と就学前児童縦断調査(ECLS-K)の大規模データを用いた、公立・私立・チャータースクール間の数学学力比較分析(回帰分析・傾向スコア法による SES 補正)

対象: 計約30万人規模の米国児童(NAEP・ECLS-K の合計)

主要結果: ・生のデータでは私立校の児童の数学スコアが高めに出ていた ・家庭の SES・人種・親の学歴等の背景要因を統計的に補正後、公立校の児童は私立校と同等か、わずかに上回るスコアを示した(統計的に有意、p<0.05) ・カトリック系私立校・非宗教系私立校・チャータースクールいずれも、公立校に対する優位性は確認されなかった ・私立校の見かけ上の優位性の大部分は、選択バイアス(家庭の SES の偏り)で説明できた

限界: 米国データに基づく分析であり、日本の私立小学校に直接適用するには文脈の違いがある(日本のほうが私立校率が低く、選択バイアスがより大きい可能性が高い)。学力以外の側面(社会性・自己概念・幸福度等)は本書の主分析対象ではない。

Strong Coleman, J. S., et al. 1966 Equality of Educational Opportunity (U.S. Department of Health, Education, and Welfare)

研究デザイン: 米国教育省の委託による全米調査(公民権法に基づく教育機会の平等性検証のため実施)

対象: 約64万人の米国児童生徒、約4,000校

主要結果: ・学校の物的資源(設備・教員給与・教科書)の差は、子どもの学力差をほとんど説明しなかった ・学校間の差より、同じ学校内での子ども間の差のほうがはるかに大きい ・子どもの学力を最も強く予測したのは、家庭の社会経済的背景(SES)とクラスメートの SES 構成 ・この知見は当時の社会通念(資源の差が学力差を生むという仮定)を覆し、その後の米国教育政策に大きな影響を与えた

限界: 1960年代米国のデータであり、半世紀以上前の研究。ただし、その後の Lubienski & Lubienski (2014)、Reardon (2011) 等の再検証で、基本的な知見は支持され続けている。

Strong Reardon, S. F. 2011 Whither Opportunity? Rising Inequality, Schools, and Children's Life Chances (Russell Sage Foundation), pp. 91-116

研究デザイン: 米国の1940年代以降の全国学力調査データ(複数の縦断調査・横断調査を統合)を用いた、所得階層と学力の関係の経年変化分析

主要結果: ・家庭の所得階層と子どもの学力の相関は、過去半世紀で約40%拡大 ・1970年代から2000年代にかけて、所得上位10%と下位10%の家庭の子どもの学力ギャップは、人種間ギャップを上回る規模まで広がった ・このギャップの拡大の主因は、就学前から学齢期にかけての家庭の文化資本・学習機会の差であり、学校間の差ではない ・学校選びの最適化より、家庭環境とSESがもたらす機会差のほうが、学力を強く予測する

限界: 米国データに基づく分析。日本の所得階層と学力の関係についても、近年類似のギャップ拡大傾向が報告されているが、米国ほど大規模な縦断データはまだ少ない。

Strong 文部科学省 2024 令和6年度 学校基本調査(確定値)

制度文書・公的統計: 文部科学省が毎年5月1日時点で実施する、全国の学校・児童生徒・教職員に関する基幹統計調査(令和6年12月18日確定値公表)

内容: ・小学生総数:約594万人(前年度より約10万8千人減少、過去最少を更新) ・私立小学校児童数:約8万人(全体の約1.3%)国立小学校児童数:約3.6万人(全体の約0.6%) ・残る約98%は公立小学校に通学 ・私立小学校の数は首都圏・関西圏に集中、地方では選択肢がほぼ存在しない

意義: 日本の小学校選択の実態を把握する上での最も基本的な公的統計。「私立小学校を選ぶ家庭は少数派」「地域差が大きい」という事実の裏付け。

Strong 文部科学省 2024 令和5年度子供の学習費調査

制度文書・公的統計: 文部科学省が概ね2年ごとに実施する、家庭が子どもの学習にかける費用の全国調査(2024年12月公表)

内容: ・小学校年間学習費総額:公立 約33.6万円、私立 約182.8万円(5.4倍) ・小学校6年間の学習費総額:公立 約201.7万円、私立 約1,097.4万円(差約896万円) ・私立小の学校外活動費(塾・習い事等):年間約81.4万円(公立の約3.5倍) ・私立小→中→高→大の一貫進学を選んだ場合、総額1,500万〜2,500万円超に達する

意義: 公立・私立の学習費に関する最新かつ公式の国家統計。家庭の長期家計計画を考える上で、最も信頼できる出典の一つ。

Mixed ベネッセ教育総合研究所 2023 小学生の学校生活に関する調査

研究デザイン: 全国の小学生児童・保護者を対象とした質問紙調査(公立小学校に通う児童が大多数)

内容: ・公立小学校に通う児童の学校満足度・友人関係の満足度は、概ね高水準 ・「学校が楽しい」と回答する児童の割合は、低学年ほど高く、学年が上がるとやや低下 ・家庭の関わり(子どもの話を聞く時間・宿題を見る時間)と、子どもの学習意欲・学校満足度に正の関連

意義: 日本の公立小学校に通う児童の日常的な経験を、大規模調査ベースで把握できる数少ない出典。「公立で大丈夫だろうか」という不安に対して、公的調査ベースでの現状を示す。

限界: 民間調査機関による調査で、回答者の偏り(調査参加家庭の特徴)はあり得る。私立小学校児童との直接比較は本調査の主目的ではない。