子どもの「嘘」はいつから?── 発達のサインと対応
「お菓子、食べてないよ」── 口の周りにチョコがついているのに
4歳の息子さんと過ごしていると、こんな場面が増えてきていないでしょうか。
- 口の周りにチョコがついているのに「お菓子、食べてないよ」と真顔で言う
- おもちゃが壊れているのに「ぼく、知らないよ」と首を振る
- 手を洗っていないのに「もう洗ったよ」と言ってご飯の席につく
- 「今日、幼稚園で○○くんに叩かれた」と言うが、先生に聞くと事実ではない
- 「ママのこと、いちばん好き」と言ったあと、パパにも同じことを言っている
最初は微笑ましかったはずの「ごっこ遊びの延長」が、だんだん「あれ、これってもう嘘だよね?」と気になる質に変わってきている。
そして、ふと考え込みます。
「うちの子、こんな小さいうちから嘘をつくなんて、大丈夫だろうか」 「ここで厳しく叱らないと、嘘つきな大人になるんじゃないか」 「私の育て方が、何か間違っているんだろうか」SNS や育児書には「嘘は絶対に許してはいけない」と書いてあるものもあれば、「嘘は発達のサインだから喜んでいい」と書いてあるものもある。どちらを信じればいいのか、判断材料がほしくなる ── そんな時期かもしれません。
本記事では、
- 子どもの嘘は、いつから・どんな質で始まるのか(Lewis ら 1989、Talwar & Lee 2002)
- なぜ嘘がつけるようになることが、認知発達の重要なマイルストンなのか(ToM とのつながり、Wellman ら 2001)
- 「白い嘘」(他人を気遣う嘘)の発達(Talwar, Murphy & Lee 2007)
- 嘘をついた時、どう対応するのが研究的にはまっとうなのか(Talwar & Lee 2008)
- 病的な嘘・心配な嘘の見分け方
を、一次資料に立ち戻って、誠実に整理していきます。先にお伝えしておくと、4 歳児が見え透いた嘘をつくこと自体は、世界中の発達研究で確認されている、ごく標準的な発達のサインです。
嘘の発達は、こんな順番で進む
子どもの嘘は、年齢によって質がはっきりと変わります。研究の整理を、できるだけシンプルにまとめると、次のような順番です。
- 2歳ごろ
作話の時代 ── 空想と現実の境界がまだ薄い
『きょうりゅう、おうちに来たよ』『パパ、お空をとんだよ』── 大人から見ると嘘に見える発話が増えますが、この時期は『相手を欺くつもりの嘘』ではなく、空想と現実の境界がまだ流動的な状態での発話です。Piaget の時代から繰り返し記述されてきた、年齢相応の現象です。叱るような対象ではなく、『そっか、きょうりゅう来たんだ』と受け止めて構いません。
- 3歳ごろ
初めての『欺くための嘘』── Lewis ら (1989) の研究
Lewis, Stanger & Sullivan (1989) の有名な研究では、3歳児に『振り返ってはいけない』というルールを与えてから、背後におもちゃを置いてその場を離れます。戻ってきて『見た?』と聞くと、おもちゃを見てしまった子の約 38% が『見ていない』と否認しました。つまり 3 歳でも、約 4 割の子が罰を避けるために嘘をつけるようになっています。ただし、この時期の嘘は『辻褄合わせ』ができず、すぐにバレるのが特徴です。
- 4歳ごろ
嘘の急増期 ── Talwar & Lee (2002) のパラダイム
Talwar & Lee の Temptation Resistance Paradigm を使った研究では、4 歳になると約 8 割の子どもが、誘惑(覗いてはいけない玩具を覗くこと)に屈したことを否認することが報告されています。同時に、心の理論(ToM)の課題成績との相関も見られ、『相手の心を推測できる力』が育つほど、嘘が上手になっていきます。
- 5〜7歳ごろ
辻褄合わせと『白い嘘』の獲得
5〜7 歳になると、最初の嘘と整合する『二次的な発話』をコントロールできるようになり、嘘が見破られにくくなります(semantic leakage control)。同時に、Talwar, Murphy & Lee (2007) が示したように、贈り物が気に入らなくても『ありがとう、好きだよ』と言える『prosocial lie(白い嘘)』が登場します。これは、相手の気持ちを思いやる社会的スキルの一部です。
- 学童期以降
状況に応じた嘘の使い分け
8 歳以降になると、嘘の道徳的な評価が場面によって変わることを理解し始めます。『友達を守るための嘘』『大人を喜ばせるための嘘』『罰を避けるための嘘』を、文脈で区別して考えられるようになります。哲学者 Sissela Bok の古典『Lying』(1978)が論じた『嘘の倫理』の入り口に、ようやく立つ時期です。
この流れを見ると、「嘘」と呼ばれているものが、年齢によってまったく違う認知活動であることが分かります。2 歳の作話と、4 歳の見え透いた否認と、6 歳の「ありがとう、好きだよ」は、すべて同じ「嘘」という日本語で呼ばれますが、子どもの中で動いている脳の働きは、別物です。
なぜ嘘がつけることが、認知発達の重要なマイルストンなのか
「嘘がつける = 発達の証拠」── これだけ聞くと、納得しがたいかもしれません。研究の言葉で、なぜそう言えるのかを、ゆっくり追います。
嘘をつくためには、子どもの脳の中で、最低限こういう計算が必要です。
- 自分が知っていること(事実)を把握している
- 相手が知らないこと、または別のことを信じていることを推測できる
- 自分の発話によって、相手の信念をコントロールできると理解している
- 『正しい答え』を抑え、『嘘の答え』を口にする実行機能(inhibition)が働いている
このうち、2 と 3 が、心理学で心の理論(Theory of Mind, ToM)と呼ばれる能力です。 ウェルマン、クロス、ワトソンが Child Development に発表したメタ分析「Meta-Analysis of Theory-of-Mind Development: The Truth about False Belief」 は、世界中の 178 研究・約 4,000 人の子どものデータを統合した、ToM 研究の歴史的なメタ分析です。
この論文が示した中心的な結果は、
- 「他人は自分とは違うこと信じている」という誤信念(false belief)の理解は、3 歳半〜4 歳半の間に急速に発達する
- 国・文化・言語・研究設計の違いを超えて、この時期に立ち上がるパターンは非常に安定して再現される
- 子どもの「心を読む力」は、社会性・道徳・コミュニケーションのほぼすべての発達に関係する
というものでした。
つまり、4 歳前後で子どもが嘘をつき始めるのは、ToM が立ち上がってきている、ほとんど世界共通のサインです。発達心理学の中では、嘘は「悪い行為」ではなく、ToM の行動指標(behavioral marker)として研究対象になってきました。
実際、Talwar & Lee (2008) は、ToM 課題の成績が高い子ほど、Temptation Resistance Paradigm で嘘をつき・嘘を維持する能力が高いことを報告しています。逆に言えば、「全く嘘をつかない 4 歳児」は、必ずしも『良い子』ではなく、ToM の発達のタイミングが少しゆっくりめ、というケースもあり得るということです。
Temptation Resistance Paradigm ── 嘘の発達を測る古典的方法
幼児の嘘研究で、もっとも繰り返し使われてきた実験パラダイムが、Temptation Resistance Paradigm(誘惑抵抗パラダイム)です。Polak & Harris (1999) や Talwar & Lee (2002, 2008) など、多くの研究で標準的に使われてきました。
実験の流れはこうです。
- 実験者が、子どもの背後におもちゃを置く
- 「これから少し席を外すね。振り返って見てはダメだよ」と伝えて、退室する
- 隠しカメラで、子どもが振り返るかどうかを観察する
- 戻ってきて、「見た?」と聞く
- 嘘をつくかどうか、嘘を維持できるかどうかを記録する
この単純な仕掛けで、世界中の研究が一貫して報告してきたのは、
- 3 歳児では、振り返った子のうち約 3〜4 割が「見ていない」と嘘をつく(Lewis ら 1989、Polak & Harris 1999)
- 4〜5 歳児では、約 7〜8 割が嘘をつく(Talwar & Lee 2002, 2008)
- ただし 3 歳児の嘘は、続けて『何のおもちゃだった?』と聞かれると、つい正解を言ってしまうことが多い
- 5 歳以降になると、『分かんない』『見てないから知らない』と辻褄を合わせることができる
ということでした。
この「嘘をつくこと自体はできるが、嘘を維持する能力は別に育つ」というギャップが、幼児の嘘の特徴です。だから 3〜4 歳の嘘は、大人から見ると「見え透いて」見えるのです。嘘を維持するための『辻褄合わせ』には、ToM だけでなく、作業記憶や実行機能の発達が必要であり、これらは小学校に入る頃まで段階的に育っていきます。
「見え透いた嘘」は、子どもがサボっているのでも、舐めているのでもなく、「嘘をつく回路は動き始めたが、嘘を維持する回路はまだ育っていない」という、発達の途中段階のあらわれです。
昨日、息子がおもちゃを壊してしまったみたいで、聞いたら『ぼく、知らない。ねこがやったの』って言ったんです。家にはねこ、いないんですけど…。
ふふ、それは 4 歳らしい、いかにも『見え透いた嘘』ですね。研究の言葉で言うと、ちょうど Temptation Resistance Paradigm で観察されるパターンそのものです。嘘をつく回路はもう動いていて、罰を避けたいという動機もはっきりある。でも、嘘を辻褄が合うように整える回路は、まだ育っている途中なんです。
叱るべきなのか、笑い飛ばすべきなのか、迷いました。
Talwar & Lee の研究で言うなら、いちばん良くないのは『嘘をついたこと』に対して怒鳴ったり、強く罰したりすることなんです。そうすると、子どもは『次は、もっと上手に嘘をつこう』と学習する方向に動きやすい。
え、それは逆効果なんですね。
そうなんです。逆に、『おもちゃ壊れちゃったね。本当のこと言ってくれてありがとう、ママは怒らないよ』と正直に話せた瞬間を強化する方向のほうが、長い目で見ると『正直に話せる関係』が育ちやすい、と研究は示唆しています。
嘘を撲滅するんじゃなくて、正直を強化するんですね。
そうそう。それが、研究の現在地から導かれる、いちばん無理のないスタンスです。
「白い嘘」 ── 他人を気遣う嘘は、社会性のサイン
子どもの嘘というと、罰を避けるための嘘ばかりが目立ちますが、もう一つ大事な系列があります。「白い嘘(white lie / prosocial lie)」── 相手を気遣って、本当のことを言わない嘘です。
トールワー、マーフィー、リーが International Journal of Behavioral Development に発表した「White Lie-Telling in Children for Politeness Purposes」 は、3〜11 歳の子どもを対象に、こんな実験をしました。
- 子どもに、子どもが事前にいちばん嫌いと答えた贈り物(石けんなど)をプレゼントする
- 「気に入った?」と聞いて、子どもの反応を観察する
- 隠しカメラで、本当の感情を漏らさずに「ありがとう、好きだよ」と言えるかを記録する
結果は、
- 3 歳児では、ほとんどの子が「いらない」「これ、嫌い」と素直に答えてしまう
- 5〜7 歳児になると、約半数が「ありがとう、好きだよ」と白い嘘を言えるようになる
- 白い嘘を言える子は、ToM 課題の成績や向社会的行動の評定が高い傾向にある
というものでした。
つまり、嘘がすべて悪いわけではなく、相手の気持ちを思いやって本当のことを言わない『白い嘘』は、社会性が育ってきたサインなのです。大人の社会で言う「お気遣い」「忖度」「相手を傷つけない言い回し」── これらが芽吹くタイミングが、ちょうどこの頃に来ます。
5 歳の子が、おばあちゃんから少し外したプレゼントをもらって「ありがとう、嬉しい」と言えたら、それは「嘘をついた」というより「おばあちゃんの気持ちを大切にできた」と読むのが、研究の整理に沿っています。
嘘をついた時、どう対応するのが研究的にはまっとうなのか
ここからは、4 歳児ママのご家庭で、明日から使える対応の整理です。研究の現在地から導かれる原則を、できるだけシンプルに並べます。
1. まず、年齢と嘘の質を見分ける
2 歳の作話と、4 歳の見え透いた否認と、6 歳の白い嘘は、別の現象です。次の3つの問いで、ざっくり仕分けてみてください。
- 子どもは、事実と空想の区別がついている年齢か?(2〜3 歳前半なら、まだ流動的)
- その嘘は、罰を避けるためか、相手を気遣うためか、注目を引くためか?
- その嘘は、一回限りか、何度も繰り返されるか?
ほとんどの「気になる嘘」は、罰を避けるための嘘です。そして、罰を避けるための嘘は、『罰の予期』をなくすことが、いちばんの対応になります。
2. 嘘そのものを問い詰めない
「うそでしょ!?」「正直に言いなさい!」と問い詰めるのは、研究的にはあまり効果的ではありません。Talwar & Lee (2008) が示すように、嘘を厳しく罰する環境では、子どもは『嘘をやめる』のではなく『嘘を上手にする』方向に学習しがちです。
代わりに、
- 「おもちゃ、壊れちゃったね。どうしたんだろう?」と、事実だけを淡々と確認する
- 「ママは、本当のことを言ってくれたら、怒らないよ」と、正直に話せる安全を保証する
- 「分かった、教えてくれてありがとう」と、正直に話してくれた瞬間を強化する
という関わりのほうが、長期的には「正直に話せる関係」が育ちやすい、と整理されています。
3. 「嘘をつかない子」ではなく「正直に話せる関係」を目標にする
子育ての目標を、「子どもが嘘をつかないこと」から「子どもが、困ったときに本当のことを言える関係性があること」に置き換えると、対応のあり方がぐっと楽になります。
学童期・思春期になって、いじめ・友達トラブル・性的な悩み・SNS のトラブルが起きたとき、いちばん欲しいのは「子どもが本当のことを話してくれること」です。そのための土台は、4 歳の今、見え透いた嘘をどう扱ったかから、少しずつ積み上がっていきます。「叱り方」の記事 ともあわせて読んでいただくと、同じ方向の関わり方として整理しやすくなると思います。
4. 親自身の「社交辞令」とどう付き合うか
4 歳ごろになると、子どもは親が外で使っている『社交辞令』にも気づき始めます。
- 「素敵なお洋服ですね」と褒めたあと、車に戻って「全然似合ってなかったね」と言ってしまう
- ご近所への「いつもありがとうございます」と、家での愚痴のギャップ
- サンタクロースの『嘘』をどう扱うか
- 「ママ、お仕事楽しい?」と聞かれたときの答え方
これらに対して、子どもが「嘘ついた!」と指摘してくることがあります。研究の側からは、ここに「絶対の正解」はありません。ただ、「相手を傷つけないために、本当のことを少しだけ柔らかく言うことがある」と、白い嘘の存在を率直に伝えてあげるほうが、5 歳前後の子の社会性の発達にはむしろ整合的、と Talwar らの研究は示唆しています。
サンタクロースの嘘については、「家族みんなで楽しむためのお話」と説明する家庭が多いですが、これも研究的に「やめるべき」とは言われていません。「いつでも本当のことを言いなさい」と「相手の気持ちも大事にしなさい」── 子どもはこの両方を、ゆっくり学んでいきます。
心配な嘘 ── 専門相談を考えたほうがよいサイン
ほとんどの幼児期の嘘は、発達のサインで、過剰に心配する必要はありません。ただし、次のようなサインがある場合は、小児科・児童相談所・スクールカウンセラーなど、専門家への相談を検討する価値があります。
- 「パパが、ぼくのおちんちんを触った」「先生に叩かれた」など、虐待・性被害を疑わせる発話が繰り返される(嘘か事実かを家庭内で判定しようとせず、まず子どもの安全を優先して相談するのが原則)
- 強い不安・恐怖・自己評価の低さを背景にした嘘が、日常生活に支障を出している
- 嘘をついていることが本人にも区別がつかなくなっている(現実検討の問題が疑われる)
- 嘘の内容が非常に複雑・壮大で、年齢を大きく超えている
- 嘘をつかれた相手を、本人が意図的に傷つけようとする意図が見える
これらは、嘘そのものというより、その背景にある不安・トラウマ・関係性の問題のサインであることが多いです。「うちの子は嘘つきだ」と家庭内で抱え込まず、専門家の目を借りていただくのが、研究的にもまっとうな判断です。
とくに「虐待・性被害を疑わせる発話」は、子どもが本当のことを話している可能性のほうが、嘘である可能性より優先して扱われるのが、現在の児童保護の標準的な姿勢です。家庭内で「嘘でしょ?」と問い詰めるより、まず第三者(小児科・児童相談所 189・スクールカウンセラー)に状況を共有することを、強くおすすめします。
今日のお話を聞いて、少し安心しました。『嘘 = 悪い子』と思い込んでいたので、毎回叱っていたんです。
その『毎回叱る』も、お母さんが息子さんを大事に思っているからこその関わりです。研究の側から見ても、嘘を放置するのが正解、というわけでもありません。大事なのは、『嘘をついたこと』を叱るのではなく、『本当のことを言ってくれたこと』を強化する方向に、力点を移すことなんです。
『本当のこと言ってくれてありがとう』── そんなふうに言ったこと、なかったかもしれません。
多くのご家庭がそうなんです。『嘘をついたら叱る』はあっても、『正直に話したら認める』はあまり意識されていない。でも、子どもの脳の学習回路から見ると、後者のほうが圧倒的に効くんです。
今日からやってみます。それと、息子が見え透いた嘘をついたときに、笑いそうになるのを我慢していたんですけど…。
その『笑いそうになる』感覚、大事にしてください。4 歳の見え透いた嘘って、よく見るとものすごく愛おしいんです。『お、ToM が立ち上がってきたな』と思って、お腹の中でこっそり拍手するくらいでちょうどいい、と私は思います。
よくある誤解を、一つずつ解いておきます
締めに ── 嘘は発達のサイン、関係性を大事に
「子どもの嘘」というテーマは、親としていちばん感情が動きやすい場面の一つです。「ここで甘やかしたら、嘘つきな大人になる」── そう思って、強く叱りたくなる。その気持ちは、お子さんを大事に思っているからこそ、自然に湧くものです。
ただ、研究の現在地が示しているのは、
- 4 歳前後で見え透いた嘘が出てくることは、ToM が立ち上がっている、世界共通の発達サイン(Wellman ら 2001、Talwar & Lee 2002, 2008)
- 3 歳児ですでに約 4 割が、4〜5 歳では大半が、罰を避けるために嘘をつく(Lewis ら 1989、Polak & Harris 1999)
- 5〜7 歳ごろには、相手を気遣う『白い嘘』も使えるようになり、これは社会性のサイン(Talwar, Murphy & Lee 2007)
- 嘘を厳しく罰する関わりは、『嘘をやめる』ではなく『嘘を上手にする』方向に学習を促しがち(Talwar & Lee 2008)
- 長期的に欲しいのは『嘘をつかない子』ではなく『正直に話せる関係』
ということです。
明日からの 4 歳児ママのご家庭でできるのは、
- 見え透いた嘘を、お腹の中で「ToM が立ち上がってきたな」と密かに祝福する
- 嘘そのものを問い詰めるのを、少しだけ控える
- 「本当のことを言ってくれたら、怒らないよ」と、安全を一言保証する
- 正直に話せた瞬間に、「ありがとう、教えてくれて」と必ず認める
- 5 歳前後の「白い嘘」は、社会性のサインとして温かく見守る
という、地味で、しかし毎日たしかにできることばかりです。
「うちの子、嘘ばっかりついて、どうしよう」と心配する夜があったとしたら、それでも今日この記事を読んでくださっているということ自体が、お子さんへの愛情のあらわれです。嘘は発達のサイン、そして関係性こそが、長く効く土台── 研究が支持しているのは、いつも、この向きです。
「叱り方」の記事 や 「自己肯定感」の記事、「非認知能力」の記事 もあわせて読んでいただくと、「正直に話せる関係」を支える別の角度が見えやすくなると思います。
研究の詳細
Primary sources研究デザイン: 心の理論(Theory of Mind)、とくに誤信念課題(false belief task)に関する 178 研究のメタ分析
対象: 世界各国の研究を統合し、約 4,000 人の子どものデータをもとに、誤信念理解の発達タイミングと、それに影響する要因を分析。
主要結果: 「他人は自分とは違うことを信じている」という誤信念の理解は、3 歳半〜4 歳半の間に急速に発達することが、国・文化・言語・研究設計の違いを超えて非常に安定して再現された。年齢が ToM 発達の最大の予測因子であり、課題のバリエーション(物の置き場所の変化、内容物の変化、欺き場面など)による差は相対的に小さい。著者らは「false belief 理解は、特定の文化・言語に依存しない、人間の認知発達のほぼ普遍的なマイルストンである」と結論。
限界: メタ分析対象の研究は主に西欧文化圏が中心で、非西欧文化圏のデータは相対的に少ない(その後の研究で、文化を超えて似たパターンが概ね再現されている)。誤信念課題の成績は、ToM の一側面を測るものであり、ToM 全体を網羅するものではない点に注意。
研究デザイン: Temptation Resistance Paradigm を用いた、3〜7 歳児の嘘行動の観察研究
対象: 3〜7 歳の子どもに対して、「振り返ってはいけない」というルールを与え、背後におもちゃを置いて退室。戻ってきて「見た?」と聞き、嘘をつくかどうか、嘘を維持できるかどうかを観察。
主要結果: 3 歳ですでに約 4 割の子どもが、ルール違反を否認する嘘をつくことができた。4〜5 歳になると大半が嘘をつくようになる。一方、嘘を維持する能力(嘘の後の関連質問にも整合する答えを返す『semantic leakage control』)は、年齢が上がるほど発達し、5〜7 歳でようやく十分に機能するようになる。著者らは「嘘をつくこと自体は早期に発達するが、嘘を維持する能力は別に発達する」と整理した。
限界: 実験室内の単発のパラダイムであり、日常生活の嘘そのものではない。文化的背景の影響は、本研究単独では十分に検証されていない(後続の Talwar らによる多文化研究で、似たパターンが報告されている)。
研究デザイン: Temptation Resistance Paradigm に加え、ToM 課題・実行機能課題・親のしつけスタイル質問紙を併用した多変量観察研究
対象: 3〜8 歳の子どもとその保護者。嘘の有無・嘘の維持能力と、ToM・実行機能・親のしつけスタイル(権威的、権威主義的など)との関連を分析。
主要結果: ToM 課題の成績が高い子ほど、嘘をつき・嘘を維持する能力が高い。実行機能(とくに inhibition)も嘘の維持と関連。親のしつけスタイルとの関連では、嘘を厳しく罰する環境ほど、子どもは『嘘を上手にする』方向に学習しやすい可能性が示唆された。著者らは「嘘は ToM・実行機能の認知的マーカーであり、親の対応の質が嘘の発達の質に影響する」と整理した。
限界: 横断的・観察的研究であり、因果関係を断定できる設計ではない。サンプルサイズと文化的多様性に限界があり、結論は一般化に注意が必要。
研究デザイン: 誘惑抵抗パラダイムを用いて、3 歳児の嘘の発達を観察した実験研究
対象: 3 歳児を対象に、ルール違反(玩具を覗く・触る)をしたあとの否認行動を、隠しカメラで観察。
主要結果: 3 歳児でも、ルール違反をした子のうち相当数(研究設計により 3〜5 割)が、違反を否認する嘘をつくことが報告された。一方で、嘘の維持能力はまだ未熟で、後続の質問(「何のおもちゃだった?」)で、つい本当のことを答えてしまう傾向が観察された。著者らは「欺きの能力は、しばしば想定されているより早期に芽生える」と論じた。
限界: サンプル数は中規模で、米国の特定コミュニティが中心。実験室パラダイムの結果が日常の嘘行動にそのまま一般化できるかは、別途検討が必要。
研究デザイン: 3 歳児を対象とした、欺き行動の古典的観察実験
対象: 3 歳児 33 名。「振り返ってはいけない」と告げ、背後におもちゃを置いて退室。戻った後の発話を観察。
主要結果: ルールに違反して振り返った子のうち、約 38%が「振り返っていない」と明確に否認し、残りの子は答えを回避するか、本当のことを言った。著者らは「3 歳児でも、罰を避けるための嘘をつくことができる」と報告し、欺きの能力が従来想定されていたよりも早期に発達することを示した、領域の古典的研究。
限界: サンプルサイズが小さく、単一の文化的文脈での結果。後続の研究(Polak & Harris 1999、Talwar & Lee 2002 など)で類似のパターンが繰り返し再現されている。
研究デザイン: 「白い嘘(prosocial lie)」の発達を観察するパラダイム研究
対象: 3〜11 歳の子ども。事前に「嫌い」と答えた贈り物(石けんなど)をプレゼントし、「気に入った?」と聞いた際の発話を観察。
主要結果: 3 歳児は本当の気持ちを率直に表現してしまう傾向が強かったが、5〜7 歳児になると約半数が「ありがとう、好きだよ」と白い嘘を言えるようになった。さらに、白い嘘を言える子は、ToM 課題の成績や向社会的行動の評定が高い傾向にあった。著者らは「白い嘘は、社会性・向社会性の発達指標として理解できる」と論じた。
限界: 実験室パラダイムであり、日常の白い嘘そのものではない。文化的価値観(率直さを重視する文化と礼儀を重視する文化)による違いは、本研究単独では十分に分析されていない。