幼児教育を科学する
発達理論 子どもの発達

自己肯定感って、どう育てるの? ─ バウマイスターの批判的レビューから読み解く

読了 約17分
4歳娘ママ からの相談 — 「自己肯定感が大事」とよく聞くが、何をすればいいのか分からない

なぜ「自己肯定感」がこんなに気になるのか

4歳のお子さんを育てていると、こんなメッセージを、毎日のように目にすると思います。

  • 「子どもの自己肯定感を育てましょう」
  • 「日本の子どもは諸外国に比べて自己肯定感が低い」
  • 「自己肯定感が高い子は、勉強もできて、人生も成功する」
  • 「ほめて伸ばして、自己肯定感を高めましょう」
  • 「『大好きだよ』を毎日言いましょう」

育児雑誌でも、保育園のおたよりでも、ベストセラーの育児書でも、繰り返しこの言葉が出てきます。読むたびに、「で、結局うちで、何をすればいいの?」という疑問だけが残ってしまう ── そんなお母さんは、本当に多いと思います。

そして、自己肯定感のメッセージには、独特の「親を不安にさせる構造」があります。

  • 自己肯定感は目に見えない
  • 高い・低いの基準もはっきりしない
  • 「○歳までに育てないと手遅れ」のような言説まで流れている
  • 何をすれば「正解」なのか、誰も明確には言ってくれない

その結果、お母さんは「何かが足りないんじゃないか」「自分のせいで自己肯定感が低い子になっているんじゃないか」と、不安だけが膨らんでいきやすい領域なのです。

本記事では、

  • そもそも「自己肯定感」とは何を指していて、何を指していないのか
  • 「高い自己肯定感は良いこと」という主張は、研究的に本当に支持されているのか(Baumeister ら 2003)
  • 過剰なほめや「あなたは特別」というメッセージは、何を育ててしまうのか(Brummelman ら 2015、2017)
  • 日本の自己肯定感が国際比較で低いのは、本当に「問題」なのか
  • そして、4歳の家庭で、本当にできることは何か

を、一次資料に立ち戻って、誠実に整理していきます。先にお伝えしておくと、「自己肯定感を育てるための特別な技」は、ほとんど必要ありません

「自己肯定感」とは、そもそも何を指しているのか

「自己肯定感」という言葉は、日本では非常に幅広く使われていますが、英語圏の研究では、おおむね 「self-esteem(セルフエスティーム)」 という言葉に対応します。これは、「自分自身に対する全体的な肯定的・否定的な評価」を指す心理学の概念です。

研究の中では、自己肯定感はもう少し細かく整理されています。発達心理学者スーザン・ハーターは、子どもの自己評価を測る古典的な質問紙(Self-Perception Profile for Children, 1985)を作りましたが、そこでは「学業面の有能感」「運動面の有能感」「身体的魅力」「仲間関係での受容」「行動面の自己評価」など、複数の領域ごとの自己評価と、それとは別に「全体としての自己価値感(global self-worth)」が区別されています。

つまり、「自己肯定感」と一口に言っても、

研究で「自己肯定感」と呼ばれてきたもの

TYPICALLY INCLUDED

自分の価値を全体として肯定的に感じる感覚(global self-worth) / 領域ごとの有能感(勉強・運動・友達関係など) / 「失敗しても自分は自分」と思える安定性 / 自分の良いところも悪いところも受け入れられる感覚(self-acceptance) / 困ったときに「自分は助けを求めていい」と思える感覚

同じ言葉で語られがちだが、別物

OFTEN CONFUSED

自信過剰・万能感(これはむしろナルシシズムに近い) / 「自分は特別」「自分は他の人より優れている」という感覚 / 何でも「できる!」と言える元気さ / 落ち込まないこと・つねに前向きであること / ほめられて気持ちよくなることだけ / 自己愛性パーソナリティ(これは病的な水準のナルシシズム)

ここで大事なのは、「自分は特別」「自分は他の人より優れている」という感覚は、研究上、健全な自己肯定感ではなく、むしろナルシシズムに近いと整理されていることです。これは後でくわしく見る Brummelman らの研究の重要な前提です。

バウマイスターの大規模レビュー(Baumeister ら 2003)── 「高い自己肯定感は良いこと」は本当か

「高い自己肯定感は、学業成績・人間関係・幸福度・健康な人生を引き起こす」── これは、1980〜90年代に米国で広く信じられ、教育政策や子育て本の標準的なメッセージとなった主張です。米国カリフォルニア州では1986年に「セルフエスティーム促進タスクフォース」が公式に設置され、自己肯定感を育てることが社会問題の解決策とまで語られました。

この大きな潮流に、決定的な見直しを迫ったのが、

バウマイスター、キャンベル、クルーガー、ヴォース(2003

心理学の公衆向け学術誌Psychological Science in the Public Interest に掲載された大規模な批判的レビュー論文「Does High Self-Esteem Cause Better Performance, Interpersonal Success, Happiness, or Healthier Lifestyles?」(高い自己肯定感は、より良いパフォーマンス・対人関係の成功・幸福・健康的な生活習慣を引き起こすのか?)

です。著者の一人、ロイ・バウマイスターは、それまで「自己肯定感推進派」を自任していた研究者でしたが、このレビューを通じて、自身の従来の立場を大幅に修正することになります。

このレビューが、何を分析したのか

研究チームは、それまでに発表された自己肯定感に関する数千本の研究論文をレビューし、

  • 自己肯定感と学業成績の関連
  • 自己肯定感と仕事のパフォーマンスの関連
  • 自己肯定感と対人関係(友情・恋愛・社交性)の関連
  • 自己肯定感と攻撃性・反社会的行動の関連
  • 自己肯定感と幸福感の関連
  • 自己肯定感と健康的な生活習慣(飲酒・薬物・性行動など)の関連

の、6つの大きな領域について、「自己肯定感が原因で良い結果が生まれている」と言えるのかを、研究の質を吟味しながら検証しました。注目すべきは、「相関がある」(=自己肯定感が高い人は成績も良い、など)というレベルではなく、「自己肯定感を上げると、本当に成果も上がるのか」という因果関係の方向まで、踏み込んで検討した点です。

何が分かったのか

報告された結論は、当時の社会通念を大きく揺るがすものでした。要約すると、おおよそ次のようなものです。

  • 自己肯定感と学業成績には、確かに弱い相関がある。しかし、長期データを丁寧に見ると、「成績が良い → 自己肯定感が上がる」の方向のほうが、その逆より強い。つまり、自己肯定感を先に上げても、成績は伴って上がらない
  • 自己肯定感と仕事のパフォーマンスの関連も、ほぼゼロから非常に弱い。職業上の成功を予測する力はほとんどない
  • 自己肯定感が高い人は、主観的には「私は人気がある」「友達が多い」「魅力的だ」と報告するが、客観的な評定(他者から見た人気・魅力)とは一致しないことが多い
  • 低い自己肯定感が攻撃性を引き起こす、という主張は支持されない。むしろ、不安定で過大な自己肯定感(「自分は特別なはずなのに、それを認めない他人」への憤り)のほうが、攻撃性と関連している
  • 自己肯定感と幸福感には、確かに比較的しっかりした正の関連がある。これは、レビューが認めた数少ない領域
  • 健康的な生活習慣(飲酒・薬物・性行動など)への影響は、ほとんど見られないか、ごく弱い

そして著者らは、論文の結論部分で、

  • 「自己肯定感を高めれば、人生のあらゆる面で良い結果が出る」という、社会に広く流布した主張は、研究的にはほとんど支持されていない
  • 自己肯定感は、良い人生の『原因』というより、良い人生を生きていることの『結果』として表れる側面が大きい
  • それでも、自己肯定感を高めること自体に「悪い影響」があるわけではなく、人生の楽しさや幸福感とは関連している

と、丁寧に整理しました。これは、推進派でも全否定派でもない、研究にもとづいた誠実な現在地として、いまも世界の発達心理学・教育心理学で重要な参照点になっています。

この研究を読むときの注意点

バウマイスターらのレビューは影響力が大きい一方で、誤読されやすい研究でもあります。

過剰なほめは、何を育てるのか(Brummelman ら 2015、2017)

バウマイスターらのレビューが示した「高い自己肯定感推進」の限界を、別の角度から決定的に補強したのが、オランダの心理学者エディ・ブルメルマンらの一連の研究です。

ブルメルマンらは、「子どもの自己肯定感を育てよう」という善意のメッセージのもとで、親が子どもに対して行なっていることが、本当に健全な自己肯定感を育てているのか、それとも別のものを育ててしまっているのかを、丁寧に検証しました。

研究A:ナルシシズムの起源(Brummelman ら 2015)

ブルメルマン、トーメス、ネレマンス、オロビオ・デ・カストロ、オーフェルベーク、ブッシュマン(2015

米国科学アカデミー紀要 PNAS に掲載された縦断研究「Origins of Narcissism in Children」(子どもにおけるナルシシズムの起源)

は、子どものナルシシズムと自己肯定感が、それぞれ親のどんな関わりから育つのかを、初めて長期的に追跡した研究です。

研究のしかたは、次のようなものでした。

  • 対象:オランダの 7〜12歳の子ども 565名とその親(個人差としてナルシシズムが芽生え始める時期にあたる)
  • 期間:6ヶ月ごと、計4波(=1年半)の縦断調査
  • 測定したもの:
    • 親の「過大評価(parental overvaluation)」(「私の子は他の子より特別」「私の子は素晴らしいことを知るべき大人だ」等にどれくらい同意するか)
    • 親の「あたたかさ(parental warmth)」(子どもに愛情・受容・関心を伝える関わりの程度)
    • 子どものナルシシズム(「私は特別な人だ」「私みたいな子はあまりいない」等への同意度)
    • 子どもの自己肯定感(「私は自分のことが好き」「私には良いところがたくさんある」等への同意度)

そして、これらの時間的な前後関係を統計的に解析しました。

何が分かったのか

報告された結論は、はっきりしていて、しかも親の直感を裏切るものでした。

  • 親の「過大評価(あなたは特別)」が、後の子どものナルシシズムを予測した。つまり、「あなたはほかの子より優れている」「あなたは特別」というメッセージを多く受けた子は、半年後・1年後により強いナルシシズム傾向を示した
  • 一方、親の「あたたかさ(愛情・受容)」は、後の子どもの自己肯定感を予測した。つまり、子どもの存在や気持ちを受けとめてもらえる関わりを多く経験した子は、半年後・1年後により健全な自己肯定感を示した
  • そして決定的なのは、「過大評価」は自己肯定感を上げず、「あたたかさ」はナルシシズムを上げなかったということ。この二つは、源泉も結果も別物だと、データではっきり区別された

ここから、研究チームは「『あなたは特別』『あなたは他の子より優れている』というメッセージは、健全な自己肯定感ではなく、ナルシシズムを育てる」「健全な自己肯定感は、『あなたを大切に思っている』『あなたの気持ちを受けとめる』という、あたたかい関わりから育つ」と、慎重に結論しました。

研究B:過剰なほめは、自己肯定感を「下げる」(Brummelman ら 2017)

ブルメルマンらは、さらに踏み込んだ研究を行います。

ブルメルマン、ネレマンス、トーメス、オロビオ・デ・カストロ(2017

Child Development 誌に掲載された縦断研究「When Parents’ Praise Inflates, Children’s Self-Esteem Deflates」(親のほめが膨らむとき、子どもの自己肯定感はしぼむ)

では、親の「過大なほめ(inflated praise)」と、子どもの自己肯定感・ナルシシズムの関係が、より直接的に検証されました。

「過大なほめ」とは、たとえば「上手だね」ではなく「信じられないくらい上手!」、「いい絵だね」ではなく「世界一の絵!」のように、誇張された、極端な賞賛を指します。日本の家庭でも「天才!」「神レベル!」「世界一かわいい!」のような言い方として、よく耳にする種類のほめ言葉です。

研究のしかたは、

  • 対象:オランダの 7〜11歳の子どもとその親 120組
  • 自宅で親子のやりとりを観察し、親のほめ言葉を「過大なほめ」「過大でないほめ」に分類
  • そこから半年ごと、計4波の追跡で、子どもの自己肯定感とナルシシズムを測定

というものでした。

何が分かったのか

報告された結論は、親の善意を、別の方向から裏切るものでした。

  • 親の「過大でないほめ(普通のほめ)」は、自己肯定感にもナルシシズムにも影響しなかった
  • 親の「過大なほめ」を受けた子は、その後の自己肯定感が下がる傾向が見られた(自己しぼみ仮説 / self-deflation hypothesis を支持)
  • とくに、もともと自己肯定感が低めの子に対して、親が善意で「世界一上手!」のような過大なほめを多くかけていた家庭では、その子の自己肯定感はさらに下がっていく傾向が見えた
  • そして、もともと自己肯定感が高めの子に対して過大なほめが多いと、その子のナルシシズムが上がる傾向が見られた

ここから、研究チームは「『この子の自信を育てたい』と思った親が、よかれと思って『世界一上手!』『天才!』のような誇張されたほめを増やすと、皮肉にも、子どもは『次もそのレベルを期待されている』というプレッシャーを感じ、できなかったときに自己肯定感を落としていく」と、慎重に解釈しました。

日本の自己肯定感は「本当に低くて問題」なのか

日本の自己肯定感の議論には、もう一つ、避けて通れない論点があります。「日本の子ども・若者の自己肯定感は、諸外国と比べて低い」という国際比較の話題です。

こども家庭庁(旧内閣府)が継続的に行ってきた、日米欧7か国(日本・韓国・米国・英国・ドイツ・フランス・スウェーデン)の若者意識調査では、

  • 「自分自身に満足している」と回答する割合
  • 「自分には長所がある」と回答する割合
  • 「自分は役に立たないと強く感じる」と回答する割合

などの指標で、日本の若者の数値が、他の6か国に比べて低めに出る傾向が、繰り返し報告されています。これが「日本の自己肯定感教育の遅れ」「もっとほめて育てなければ」というメッセージにつながり、国・自治体・学校現場で多くの「自己肯定感向上施策」が走ってきた背景です。

ただ、この国際比較データは、そのまま「日本の子どもの自己肯定感は問題」と読むには、いくつか慎重さが要るということが、近年の研究者・調査関係者から指摘されています。

「謙遜が美徳」の文化と、自己評価質問紙

第一に、自己肯定感の国際比較で使われる質問紙は、もともと米国で開発されたものを翻訳して使うことがほとんどです。しかし、米国と日本では、「自分のことをどう語るか」の文化的規範が大きく違います

  • 米国では、自分の良さを率直に語ることがむしろ期待される(「I’m great at math」と言える)
  • 日本では、自分の良さを控えめに語ることが社会的に望ましいとされる(「数学はちょっとできるほうです」)
  • 日本では「私には長所がある」とはっきり言うこと自体が、文化的にハードルが高い

つまり、「自分には長所がある」に丸をつける割合が低いからといって、それを「自分に長所があると本気で思っていない」=自己肯定感が低いと読むのは、文化差を見落とした単純化になりやすいのです。

比較したい指標と、実際に測られている指標のズレ

第二に、「自分に満足している」「自分は役に立つ」のような問いが測っているのは、「自己呈示(他者に自分をどう示すか)」と「自己評価(本当のところ自分をどう感じているか)」の混合物です。

ここでも、「謙遜が望ましい」とされる文化では、「いま満足しています」「私は役に立っています」と回答することそのものに、社会的なブレーキがかかります。同じ内的な感覚を持っていても、回答の数字が低めに出る、というのが自然な解釈です。

では「気にしなくていい」のか

ここで「だから日本の子どもの自己肯定感は問題じゃない、何もしなくていい」と言いたいわけではありません。

  • 国際比較の数字を額面通りに受けとって、「日本の子どもはみんな自信がない」と過度に不安になる必要はない
  • ただ、「自分は誰にも大切にされていない」「自分には居場所がない」と感じている子が一定数いることは、別の調査でも確認されている事実
  • 大切なのは「平均点を上げる」ことより、目の前のお子さんが、安心して自分のことを話せる関係を持てているかのほう

つまり、「日本全体の平均値の話」と「お母さんの目の前の4歳のお子さんの話」を、いったん切り離して考えるのが、現実的な向き合い方です。

A研究 vs B研究:二つの「自己肯定感を育てる」アプローチ

ここまでの研究をもとに、世間で語られている「自己肯定感の育て方」を、二つに整理してみます。本サイトの編集方針として、研究の解釈が分かれる領域では、両側のアプローチを並列にお示しします。

A:「ほめて伸ばす」アプローチ

PRAISE-CENTERED

とにかくたくさんほめる。「すごい!」「天才!」「世界一!」を惜しまない。「ダメ」と言わない。子どもの言うことをすべて肯定する。「あなたは特別」を伝え続ける。自己肯定感は「ほめの量」で育つと考える。Baumeister ら (2003) のレビューや Brummelman ら (2015, 2017) は、このアプローチの効果に強い疑問を投げかけている。

B:「条件付き・プロセスの肯定」アプローチ

PROCESS-RESPONSIVE

子どもの「行為・プロセス」を具体的に言葉にして返す。誇張ではなく等身大のほめ。「ダメなものはダメ」を一貫して伝える。失敗したときに、能力ではなく方法を話題にする。何より、お子さんの存在そのものを「あたたかく受けとめる」関わり。Brummelman ら (2015) が言う「親のあたたかさ(warmth)」が、健全な自己肯定感を予測した、というデータと整合する。

Aのアプローチは、短期的には子どもがうれしそうに見え、親も「自分はちゃんとほめてあげている」と安心できます。しかし、長期的には、「ほめられないと自分の価値がわからない子」「期待に応えられないと崩れる子」「『特別な自分』を守るために挑戦を避ける子」を育ててしまう可能性がある、というのが研究のメッセージです。

Bのアプローチは、地味で、即効性が見えません。でも、「失敗しても自分は自分」「ありのままの自分でも受けとめてもらえる」という、自己肯定感のいちばん深い土台を、ゆっくり育てていきます。

4歳娘ママ

最近、「自己肯定感を育てる」って言葉が、いろんなところで出てくるんです。本にもSNSにも、保育園のおたよりにまで。私、何かすごく足りないことをしているんじゃないかって、不安で。

ねい先生

その不安、本当によく聞きます。「自己肯定感」って言葉自体が、いつのまにか「親がきちんと育てなければならない対象」みたいに扱われていますよね。研究の側から見ると、そこには結構大きなズレがあるんです。

4歳娘ママ

ズレ、ですか?

ねい先生

はい。バウマイスターという心理学者のチームが、何千本もの研究をまとめて検証したんです。そうしたら、「高い自己肯定感が、勉強や人間関係や幸せを引き起こす」という、いま広く信じられているメッセージは、研究的にはほとんど支持されていなかったんです。

4歳娘ママ

えっ、そうなんですか? じゃあ「ほめて自己肯定感を育てる」って、間違ってるんでしょうか…?

ねい先生

間違いというより、もっと丁寧な話なんです。ブルメルマンというオランダの研究者が示したのは、「世界一上手!」「天才!」のような誇張されたほめは、健全な自己肯定感ではなく、ナルシシズム(自分は特別という感覚)を育ててしまう、という結果でした。しかも、もともと自信のない子に過剰なほめをすると、その子の自己肯定感はむしろ下がっていくんです。

4歳娘ママ

えっ…私、「うちの子、自信なさそうだから、もっとほめなきゃ」って思ってたんですけど…逆効果になってる可能性があるってことですか?

ねい先生

「逆効果」と言うほど深刻にならなくて大丈夫です。お母さんが過剰なほめを連発しているわけではないと思いますから。ただ、研究のメッセージは、「ほめの量を増やす」より「子どもの存在そのものをあたたかく受けとめる関わりを大事にする」のほうが、ずっと健全な自己肯定感を育てる、ということなんです。

4歳娘ママ

「あたたかく受けとめる」って、具体的にはどういう…?

ねい先生

お子さんが「ねえ見て」と何かを持ってきたときに、目を合わせて「お、これ何にした?」と聞き返す。失敗して泣いているときに、「悔しかったね」とまず気持ちを受けとめる。「ダメなものはダメ」ときちんと伝えたうえで、「やりたかったね」と気持ちには寄り添う。──ご家庭で、もうやっていらっしゃることばかりですよ。

4歳のご家庭で、明日からできること

ここまでの研究を踏まえて、4歳のお子さんとの日常で、本当にできることを整理していきます。「自己肯定感を育てる特別なテクニック」は、ほとんど必要ありません。研究的に大事なのは、「あたたかさ(warmth)」と「応答性(responsiveness)」という、地味で日常的な関わりです。

1. 「あなたは特別」より「あなたを大切に思っている」

これは、Brummelman ら (2015) の研究から、いちばんはっきり言えることです。

  • ○○ちゃんは他の子と違って特別な子だよ」 → ナルシシズムを育てやすい
  • ○○ちゃんのこと、大好きだよ」「ぎゅっとしようね」 → 自己肯定感を育てやすい

ポイントは、「他の子と比べて優れている」というメッセージではなく、「あなたとの関係を大切に思っている」というメッセージに重心を置くことです。「あなたは特別」は、結果的に「特別であり続けなければ愛されない」というプレッシャーになりかねません。

2. 「世界一!」「天才!」より、見たままの一言

Brummelman ら (2017) が示したのは、「過大なほめは、もともと自信のない子をさらに追い詰める」ということでした。

  • 世界一上手!」 → 「赤と青を混ぜたんだね」「最後まで描けたね
  • 天才!」 → 「むずかしいところ、何度もやってみたね
  • すごすぎる!」 → 「自分から片付け始めたんだね

誇張せず、見えたことを言葉にする。これが、研究的にいちばん健全な「ほめ方」です。詳しい議論は ほめ方のコツの記事 もあわせてご覧ください。

3. 失敗したときに、能力ではなく気持ちを受けとめる

自己肯定感のいちばん深い土台は、「失敗したときに、自分の存在そのものは否定されない」という経験です。

  • ボタンが留められなくて泣いている → 「うまくいかなくて悔しいね」(まず気持ち)
  • 折り紙が破れてしまった → 「ここまでがんばっていたのに、悲しいね
  • お友達とおもちゃの取り合いで泣いた → 「使いたかったね

大丈夫、○○ちゃんは賢いから次はできるよ」のような励まし(能力への保証)より、「うまくいかなかった気持ちを、まず受けとめる」ほうが、研究の知見と整合します。気持ちが受けとめられた経験を積んだ子は、失敗したときにも「自分は自分」でいられます。

4. 「ダメなものはダメ」をきちんと伝える

意外に思われるかもしれませんが、「何でも肯定する」ことは、健全な自己肯定感を育てません

  • 危ない行動・人を傷つける行動には、はっきり「ダメ」と伝える
  • そのうえで、「やりたかったね」「悔しかったね」と気持ちには寄り添う
  • ルールは「ママの機嫌」で変わらず、おおむね一貫している

「ダメなことはダメ」と言ってくれる大人がいる中で、それでも自分は受けとめてもらえる ── この経験が、「条件なしに自分は愛されている」という感覚の土台になります。何でも肯定される環境では、子どもは「本当の自分は受けとめてもらえているのか」を、つねに試さなければならなくなります。

5. 「ありがとう」を増やす

「いい子だね」「えらいね」(=評価の言葉)を、

  • ありがとう、すごく助かった
  • ○○してくれて、ママうれしいよ
  • 一緒にやってくれて、楽しかった

に少しずつ置き換える。これは、「評価される自分」から「関係の中で大切にされる自分」へと、お子さんの自己感覚をやさしく動かしていきます。ハーターやムルクの自己肯定感理論で言う「worthiness(価値ある存在として扱われる感覚)」を、毎日の小さな言葉で積み重ねる方法です。

6. 比べない、ランキングしない

「お兄ちゃんは○○できたのに」「お友達の◯◯ちゃんは△△」「クラスでいちばん」── こうした比較の言葉は、自己肯定感のもっとも大きな敵です。

  • お子さんの「いまの姿」を、過去のお子さん自身と比べる(「先月はできなかったね」)
  • 他の子と比較するのではなく、「○○ちゃんは○○ちゃん」と区切る
  • きょうだいがいる場合も、「上の子は上の子」「下の子は下の子」と分けて見る

「比べられない自分」を持てた子は、他者と比べて優劣を競うことなく、「自分のままで大丈夫」という感覚を育てていきます。

7. 「もう、やれている」ことを思い出す

これがいちばん大事です。これらすべての項目は、4歳のお子さんを育てていらっしゃるお母さんが、すでに、日常の中で当たり前のようにやっていることばかりです。

  • お子さんの「ねえ見て」に、なるべく目を合わせて応える
  • 失敗したとき、まず気持ちに寄り添う
  • 危ないことには「ダメ」と言う
  • 寝る前に「大好きだよ」と伝える
  • 「ありがとう」「助かったよ」と日常的に言う
  • 他の子と比べない

これらは、特別な教材も、特別な訓練も必要ありません。研究の側から「効く」とされていることは、もうご家庭の日常の中で起きています

それでも気になる「うちの子、自信がなさそう」

「ここまでの話は分かった。でも、うちの子、やっぱり自信がなさそうに見える…」── そう感じる方は、少なくないと思います。最後に、この感覚についても触れておきます。

4歳という年齢は、まさに「自分と他者の比較ができるようになり始める」時期です。「○○ちゃんはお絵かき上手なのに、私は…」「跳び箱が跳べない」「お兄ちゃんみたいに字が書けない」── 自分の不得意な部分を意識し始めるのは、認知発達上の自然なプロセスです。

ここで大事なのは、お母さんの心配のしかたを、少し変えてみることです。

  • ×「うちの子の自己肯定感が低い」=ラベル
  • ◯「いま、この子はここで悔しい思いをしている」=具体の状況

ラベルで考えると、「自己肯定感を上げなきゃ」と、不安と焦りが先に立ちます。具体の状況で考えると、「ここで一緒に悔しがる」「ここで気持ちを受けとめる」という、お母さんにできることが見えてきます。これは 愛着理論の記事 でお話しした「安全基地としての応答」と、まったく同じ考え方です。

「うちの子は自己肯定感が低い」と思っていたお母さんが、目の前のお子さんの「いまの悔しさ」に丁寧に応えていくうちに、いつのまにかお子さんが「失敗しても自分は自分」と思えるようになっている ── これが、研究の現在地が示している、自己肯定感の育ち方です。

締めに

「自己肯定感を育てよう」というメッセージは、いま、子育ての世界でもっとも語られている言葉の一つです。だからこそ、いろいろな主張・教材・プログラムがこの言葉のもとに流通しています。

研究の側から見ると、結局のところ大切なのは、

  • 「高い自己肯定感が良い人生を引き起こす」という単純な因果は、大規模な研究レビューでは支持されていない(Baumeister ら 2003)
  • 「あなたは特別」「世界一上手」のような誇張されたメッセージは、健全な自己肯定感ではなく、ナルシシズムや自己しぼみを生む(Brummelman ら 2015、2017)
  • 健全な自己肯定感は、「親のあたたかさ」「応答的な関わり」「失敗を受けとめてもらえる経験」の中で、結果として育つ
  • 日本の国際比較データは、文化差(謙遜の規範)も大きく影響しており、額面通りに不安になる必要はない
  • 「自己肯定感を育てるための特別な技」は、研究的にはほとんど必要ない。日常の応答性の中で、すでに育っている

ということです。

そして、4歳のお子さんとの日常で本当にできることは、

  • 「あなたは特別」より「あなたを大切に思っている」
  • 「世界一!」より、見たままの一言
  • 失敗したときに、能力ではなく気持ちを受けとめる
  • 「ダメなものはダメ」をきちんと伝える
  • 「ありがとう」を増やす
  • 他の子と比べない
  • そして、「もう、やれている」ことを思い出す

という、ごく地味で、しかし毎日たしかにできることばかりです。

「自己肯定感を育てなきゃ」と肩に力を入れて、毎日を不安や焦りで上書きする必要は、まったくありません。お子さんの「ねえ見て」に応える、悔し涙に寄り添う、寝る前に「大好き」と伝える ── その日々こそが、研究の側から見ても、自己肯定感の本体です。

4歳娘ママ

今日のお話を聞いて、ずっと心の隅にあった「私の関わり方じゃ、自己肯定感が育たないんじゃないか」っていう不安が、すごく軽くなりました。

ねい先生

それがいちばん大事です。お母さんが落ち着いていられることが、お子さんの安心基地として、いちばん効くんですよ。「自己肯定感を育てなきゃ」と肩に力を入れすぎると、かえって関わりがぎこちなくなって、お子さんもそれを感じ取ってしまうんです。

4歳娘ママ

じゃあ、いま、毎日娘とやっていることって、もう「自己肯定感を育てている」と言ってもいいんでしょうか?

ねい先生

まさに、そうなんです。「ねえ見て」と差し出された絵に「お、これ何?」と返す。「悔しい」と泣いているお子さんを「悔しかったね」と抱きしめる。「これはダメ」とちゃんと伝えたうえで、「やりたかったね」と寄り添う。──全部、Brummelman らの研究が「健全な自己肯定感を予測する」と言っている関わり方そのものなんです。

4歳娘ママ

なんだか、明日からの「ねえ見て」が、ちょっと違って聞こえそうです。今日もこのあと、たぶん絵を持ってくるんですけど、まずは「お、これ何?」って返してみます。

ねい先生

それが、研究的にもいちばんおすすめの関わりです。お子さんは、自分の絵を、お母さんに一緒に見てもらえたという経験を、しっかり積み重ねていきますよ。それが、何より深い自己肯定感の土台になります。

研究の詳細

Primary sources
Strong Baumeister, Campbell, Krueger, & Vohs 2003 Psychological Science in the Public Interest, 4(1), 1-44

研究デザイン: 自己肯定感に関する大規模な批判的レビュー論文(Psychological Science in the Public Interest 誌掲載)

対象: 自己肯定感と、学業成績・仕事のパフォーマンス・対人関係・攻撃性・幸福感・健康的な生活習慣との関連を扱った、数千本の研究論文を統合的にレビュー

主要結果: 「高い自己肯定感が、人生のあらゆる面で良い結果を引き起こす」という社会通念は、研究的にはほとんど支持されないと結論。自己肯定感と学業成績には弱い相関があるが、長期データでは「成績が良い → 自己肯定感が上がる」の方向のほうが強い。仕事のパフォーマンス・対人関係の客観的指標との関連はほぼゼロ。攻撃性は「低い自己肯定感」よりも「不安定で過大な自己肯定感」と関連。幸福感とは確かに正の関連があり、これがレビューが認めた数少ない領域。著者ら(自身もかつて自己肯定感推進派)は、研究の結果を踏まえて従来の立場を大幅に修正した。

限界: 観察研究を多く含むレビューであり、因果関係の同定には限界がある(著者ら自身もこの点を明示)。レビュー時点(2003年)以降の研究は含まれないが、2018年の再点検論文 (Baumeister & Vohs, Perspectives on Psychological Science) でも結論はほぼ維持されている。

Strong Brummelman, Thomaes, Nelemans, Orobio de Castro, Overbeek, & Bushman 2015 Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(12), 3659-3662

研究デザイン: 6ヶ月ごと計4波(1年半)にわたる前向き縦断研究

対象: オランダの 7〜12歳の子ども565名とその親(ナルシシズムの個人差が芽生え始める年齢として設定)。子どもと親の双方が、ナルシシズム・自己肯定感・親の過大評価・親のあたたかさを毎波報告。

主要結果: 親の「過大評価(あなたは他の子より特別)」が、後の子どものナルシシズムを予測した。一方、親の「あたたかさ(愛情・受容)」が、後の子どもの自己肯定感を予測した。これら二つの源泉と結果は、データではっきり区別された(過大評価は自己肯定感を上げず、あたたかさはナルシシズムを上げなかった)。社会学習理論(ナルシシズムは過大評価から学習される)を支持し、精神分析理論(ナルシシズムはあたたかさの欠如から生じる)とは異なる結果。

限界: オランダのサンプル(主に中流家庭)を中心とした研究で、他文化への一般化には注意が必要。観察期間が1年半と中期的であり、より長期の追跡が望まれる。質問紙による自己報告データを中心としており、行動観察データはより限定的。

Brummelman, Nelemans, Thomaes, & Orobio de Castro 2017 Child Development, 88(6), 1799-1809

研究デザイン: 親子のやりとりを自宅で観察したうえで、半年ごと計4波の前向き縦断研究

対象: オランダの 7〜11歳の子どもとその親120組。親のほめ言葉を観察データから「過大なほめ(inflated praise)」「過大でないほめ」に分類し、子どもの自己肯定感とナルシシズムを縦断的に追跡。

主要結果: 「過大でないほめ(普通のほめ)」は、自己肯定感にもナルシシズムにも影響しなかった。一方、「過大なほめ」を受けた子は、自己肯定感がもともと低めの場合、その後さらに自己肯定感が下がる(self-deflation 自己しぼみ)傾向が見られた。自己肯定感がもともと高めの子に過大なほめが多いと、ナルシシズムが上がる傾向が見られた。親が「自信をつけてあげたい」と善意でかける誇張ほめが、皮肉にも逆効果になりうるという「praise paradox」を初めて縦断データで示した。

限界: サンプル数が比較的小さい(120組)。オランダの中流家庭が中心。自己肯定感が低めの子に対する過大ほめの自己しぼみ効果はやや小さく、追試による確認が望ましい。

Harter, S. 2012 Guilford Press(書籍, 第2版)

研究デザイン: 子どもから青年期までの自己発達に関する理論書(著者自身の長年の研究と関連分野の知見を統合)

対象: 乳児期から青年期までの自己概念・自己評価・自己肯定感の発達

主要結果: 子どもの自己肯定感は、「能力に対する自己評価(perceived competence)」と「重要な他者からの受容感(regard from others)」の二つの源泉から育つ。自己肯定感は単一の特性ではなく、領域別(学業・運動・友達関係・身体的魅力・行動など)の自己評価と、全体としての自己価値感(global self-worth)が組み合わさったもの。年齢とともに自己評価は分化し、青年期にはより複雑な構造を持つようになる。著者の Self-Perception Profile for Children (Harter, 1985) は、世界的に最も広く使われている子ども向け自己評価質問紙の一つ。

限界: 書籍であり個別の実証研究の報告ではない。理論的整理が中心。文化差の扱いは限定的(主に英語圏のサンプルを背景にしている)。